戦争と平和、その601~解ける封印㉑~
「君さぁ、確かにウッコを元に戻すまでは目的が一致したから協力したけど、そこから世界を壊すだなんて認められないよ? 破滅願望はお呼びでないのさ」
「・・・ふん、ならばその戦力であがいでみるがいいわ。魔人と真竜が全盛期を誇ったころですらどうにもならなかった、あの魔獣を。しかも完全体にまで戻したのよ? あなたたちの力でどうにかなるようなものじゃあ――」
「うーん、その件なんだけど。どうやら皆、勘違いしているみたいだから言っておくね? 別にウッコが強かったわけじゃあないんだよ。その魔獣なら、正直この戦力でも勝てる」
中層の管理者が堂々と告げたことはアルフィリースたtにとっても突拍子もないことだったが、驚く彼女たちを中層の管理者が制した。そして目配せで、話を合わせるように促してくる。
アルフィリースは管理者の意図を察すると、ヴァイカをひっそりと促してその場から遠ざからせる。
想像していない答えに呆然とするチャスカに向けて、中層の管理者は続けた。
「なん・・・ですって?」
「おかしいとは思っていたんだ。中層の管理者になってからこっち、この中層で休眠している魔獣たちの能力を一通り調べたけど、それほど強力じゃあないはずなんだよ。
君たちも戦姫ならわかるだろ? いかに魔力量が膨大でも、生まれてこの方戦ったことない生物が戦いでどのくらいの能力を発揮できるかは未知だ。そしてここの生物たちはウッコとアッカを除いて、一度も活動した形跡がない。そう、彼らは培養器の中で作られてから、一度も解き放たれていないんだよ。
そしてウッコとアッカの能力は攻撃寄りだ。かつての戦いの様に、魔人と真竜の集中砲火を無効化するなんて、そんな能力は備わっていない」
「戦っているうちに獲得するかもしれないじゃない?」
「それはないね」
きっぱりと中層の管理者は言い切った。
「だって、その魔獣の知性は人間の赤子程度だぜ? そりゃあ魔獣としての本能はあるだろうけど、意図して攻撃したり防御したりなんてのはできないのさ。ただ人間の赤子のように本能のまま鳴いて、叫んで、暴れ回るだけだ」
「だ、だからと言って――」
「魔術の獲得は知性に比例する。特に時間差、全方位からの全属性攻撃を完全に防御するなんて芸当は、知性のない魔獣には無理だ。超速度の再生なら納得する。だけど、ちがうんだなぁ、これが」
中層の管理者が合図すると、背後のアルフィリースっちが散開し始めた。だが目論見が外れたチャスカはそんなことを気にしていないのか、やや俯いてぶつぶつと何かを呟いている。
「なら・・・私を殺してくれるのは・・・誰が・・・どうやって・・・」
「ふーむ、壊れたかな? 元々人格が破綻しているとは思うけど、今のうちにやってしまおうか。厄介なことには違いがないんだからね」
中層の管理者が杖をかつんと地面で鳴らすと、中層の管理者を起点に防御魔術が展開された。そしてそのまま説明を始める。
「少々相手が想定手強くなったけど、やることは予定通りだよ。ボクが防御と足止め、センサーのリサちゃんが弱点を感知し、ボクがそれを攻撃陣に伝え、麗しき攻撃担当の女性たちの連携で仕留める。いいかな?」
「おひとりで全部やったらどうですか?」
「ボクは魔術士でね。あのウッコとアッカは直接的に核を攻撃しない限り、致命的一撃にはならないんだよ。実は防御魔術は使えないと言ったが、あの魔獣は特定の属性の魔術を取り込んで生命力に変換する性質がある。それがあの『五識の衣』と呼ばれる体毛なんだね。取り込めないのは光と闇だけ――そうなると、攻撃する人間はおのずと限られる」
「なるほど。それでアルフィリース、ソールカ、ライフレス、ティタニアですか。ラーナは?」
「単に出力不足。マナの使い方に秀でた魔女じゃあ、オドでの大魔術には向いていない。さて、とばっちりを受ける前に始めるよ? 今は全盛期の力を取り戻したことと、元のウッコとアッカが合体していた頃に戻ったせいで上機嫌だけど、何が引き金になって大暴れするかはわからない。
内蔵した魔力だけは大陸随一だ。一度自分以外の生物を敵と認識してしまえば、この大陸が焼け野原になるまで暴れ回るだけの魔力を蓄えているだろうからね!」
「俺たちはこの嬢ちゃんの護衛か?」
「そういうこと! そこのリサちゃんが鍵だよ。彼女がいなくなれば、あの魔獣の魔力と生命力が切れるまで、やたらめったらに攻撃を続ける必要が出て来るからね!」
やや不服そうなベッツに中層の管理者が笑顔で返答し、その内容に全員の期待が集まるのをリサは背中で感じていた。
続く
次回投稿は、10/16(金)17:00です。