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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2062/2685

戦争と平和、その598~解ける封印⑱~

 テトラスティンはバラバラになったリシーの体をある程度一か所に集めていたが、半分近くそれらを集めたところで突然その作業を放り出し、歩き出した。


「・・・嘘をついたな、その導師」

「何?」

「ここのようにマナと断絶された場所では、マナの中に還りようもない。見ろ、普通なら灰になるはずの導師の死体が、そのままだ。その導師の魂は行くところもなく、彷徨うだけだ」

「・・・なぜ、それを貴様が知っている?」

「導師を殺したことがあるからに決まっている」

「テトラスティン! そなたはどれだけ禁忌を犯せば――」


 シェバが色めき立ち、杖を手に取った。だがいち早くテトラスティンは身を翻し、距離をとった。


「もう最大の禁忌は犯している。今更いくつ悪行を重ねたところで、恐れるかよ」

「だからといって、それほどまでに――」

「まだ私を心配するのか、シェバ。だから私はお前を選べなかったんだ。私は救いなんて望んでいない、私が望むのは共に地の底に落ちてくれるともがらだけよ。心配するな、別に貴様達と敵対するつもりはない。少し調べものがあるから、そこのリシーを預けておく。さっさと転移で脱出しろ」

「・・・テトラ?」


 リシーが不思議そうな顔をした。テトラスティンが自分を置いて行動するなど、記憶になかったからだ。だがそんなリシーを見つめるテトラスティンの笑顔は乾いていた。


「--心配するな、どうせ離れられない。すぐに戻るさ」

「テトラ!」


 リシーの叫びを背後に、テトラスティンが姿を消した。同時に、一番高い建物に浄化作業の雷撃が当たる音を彼らは聞いた。建築物は破損しないようだが、人間や生物があの電撃を受けて無事な保証はない。いや、おそらくは確実に死ぬのだろう。


「生物だけを抹殺する雷撃なのか?」

「確認するには死、だな」

「時間がない。真竜殿、転移魔術を起動する。我々が出会った入り口まで飛びますぞ、いいですか?」

「構わぬ。オドは足りるか?」

「ぎりぎりなんとかなりましょう!」


 この場に、テトラスティンが自分の体に封印している上位精霊から放出したオドがまだ残存していた。シェバはそれらや、周囲の者達のオドを全て集めてようやく転移魔術が行使できることに気付いた。

 テトラスティンはそのことも想定して、おそらくはオドを消費せずに周囲に残しておいた。であるなら、やはりあの損な役回りの男は、時折見せる優しさこそが本性なのだとシェバは確信し、転移魔術を起動していた。


***


 そして姿を消したテトラスティンは、下層のさらに下に続く穴を見つけていた。


「ここだな・・・浄化作業なるものも味わってみたいが、おそらくは死なないだろう。こちらの方が優先だな」


 テトラスティンは魔術を起動することなく、小さな明かりと身体能力だけでその縦穴を降る。下層で偶然にもレーヴァンティンの一撃をやり過ごしたあと、姿を隠して一連の様子を窺っていたテトラスティン一行。その際、ディエナがこちらから出てきたのは確認していた。

 ディエナが想像通りの存在なら、千年以上の時を越えて求めた答えがこの先にあるだろうと、テトラスティンは期待していた。


「私たちの不死が遺跡依存だとするなら、答えは遺跡の中にしかないのだろう。さて、きちんと意志を持って稼働している遺跡は初めてだ。期待しているが、どうかな?」


 下層の灯りが徐々に消えていったことから、ここもまもなく休眠となる可能性がある。酸素も栄養もなくとも死にはしない自分の不死だから、穴が広がって一面の水面となっても、何の躊躇いもなくテトラスティンは飛びこんでいた。

 飛びこんで間もなく、水の中で語り掛けて来る声が聞こえる。


「おや・・・これは懐かしい」

「その声は・・・」


 テトラスティンの前に、懐かしい姿が出現する。一瞬その姿を見て目を見開いたテトラスティンだが、そのあとに彼にしてはとても優しく、少年のような顔で寂しく微笑んだ。


「ふふ・・・そうか、確信した。なんともこの遺跡は性格が悪い」

「心拍、脳内分泌物質、ともに正常範囲・・・対象は冷静ですネ」

「私のせいで死んだ友人の姿で出て来るとは、それが試練か?」

「ま、そんなところでス」


 遺跡の声が答えた。軽薄な相手の反応にテトラスティンは唾を吐いてやりたかったが、水中ではそれもかなわない。


「その姿を知っているということは、遺跡間での情報は共有されているはずだ。私とリシーの不死の原因も知っているな?」

「はい、無論のこト」

「では教えてもらおう、この遺跡が休眠する前にな」

「それは構いませんガ、代償はなんですカ? まさか何の対価もなく、情報を得ようト? それは魔術士として失格でショウ」

「ふむ――では対価を教えろ。それがなんだろうが、やってやるさ」

「では一つだケ――この大陸の道標になってくださイ」


 遺跡の提示した条件に、テトラスティンが眉をひそめた。言っている意味を理解し損ねたからだ。



続く

次回投稿は、10/10(土)17:00です。

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