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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その594~解ける封印⑭~

「君、おかしいぞ? 演算が追いつかない・・・いや、演算が狂わされた。いかに能力スペックを発揮できないとはいえ、人間族が使徒に迫るようなことがあってはならないんだぞ!?」

「知らないよ、そんなこと!」

「スキャンを継続したいところだが、仕方があるまい。優先順位の変更だ、君を殺す」


 ディエナが中層からの魔力簒奪の速度を上げた。さらに膨れ上がる魔力の奔流に、レイヤーがたたらを踏んだ。


「通常は対軍や、殲滅戦、あるいは地表掃討戦に使う『魔法』だが、個人に使うことになるとはね。この遺跡ならぎりぎり耐えてくれるだろう」

「そんな攻撃、使うなよ!」

「仕方があるまい、それだけ君の脅威度が高いのだ。誇りに思いたまえ!」


揺蕩たゆたうは大気におわす水の大精霊よ、来たれ。呼ばれて寄りて球となれ、球よ寄りて海と成れ。海と成りて――】


 ディエナが詠唱を開始しながら、レイヤーとの近接戦を展開した。ここまで激しく動けば息継ぎや集中力の問題で詠唱などそもそもままならないはずなのだが、ディエナの剣は鋭さを増しながらレイヤーを追い詰める。

 その間にも詠唱が続き、ディエナの周囲には可視化できるほどの精霊が集まり始めていた。まったく精霊がいない状態から、オドだけで精霊を作り出す。それがどういう意味を持つのかレイヤーには理解できなかったが、頭の中で喚くように叫び続けるシェンペェスの声が、一大事を告げている。

 発動されれば死ぬ。詠唱を中断させるべくレイヤーも負けじと全力で切り返すが、ディエナの剣を攻め切るに至らない。ディエナはさらに、中層の管理者のように周囲に球体を展開し、多方向からレイヤーを攻め立てた。たまらず一度レイヤーが距離を取る。


「くそっ、近づけない!」

「どうした、魔法が完成してしまうぞ? それにこれだけのオドを集めているんだ。言い忘れていたが、中層にいる君の仲間からも強制的に徴収することになる。

 中層にはどうやらこの大陸の御子がいるようだね? 御子のシステムはもう解明されているが、元々はそれほど大したオドももっていないようだ。このまま吸収し尽くしてしまおうか。ああ、魔法が放たれれば、その余波でどのみち皆死んでしまうのか」

「! させるかぁ!」


 レイヤーが再度猛然と突撃した。先ほどよりも明らかに上がった速度に、ディエナは魔法を詠唱する以外の全ての能力を持ってレイヤーを迎撃すべく対峙した。

 距離は24歩、詠唱完了にかかる時間は17秒、魔法名から発動までの時間差が2秒。誤差も含めて20秒で勝てる。その時間を凌ぐだけなら万が一も起きえないと、ディエナは確信していた。

 球体から放出される水の剣が周囲の建物を切断するが、レイヤーはそれも躱しながらディエナに迫る。1つ、2つ。全部で6個はあった球を次々に斬り落とすが、壊す端からディエナの影から新しい球が供給される。そして全部で12個まで増えた球の攻撃をかいくぐるように、残像すら伴う速度でレイヤーがディエナに迫る。


「これも躱すかよ、君! 人間の反射速度を超えているぞ!?」

「こんなもの!」

「ええい、化け物め!」


 16歩、12歩、8歩。わずか10秒でこれだけ詰められる。レーヴァンティンが戦い方をレイヤーに落とし込んでいるにしても、明らかに異常な速度。まず人間の体がついてこないはずだし、筋量が多いことが速度を上げるわけではない。

 まるで使徒を倒すために作られたような身体能力。こんなデザインをされた種族は、使徒の情報網には存在しない。


「特性持ちか、君! だけど、何の?」

「だから、知らないって!」

「対遺跡特化の特性だとでもいうのか!? そんな生物は生まれたことがないし、特性一覧にないんだよ! 人族にそんな力は与えられていない、逸脱するな!」

「うるさい! お前を倒すためなら、なんだってやるさ!」


 6歩、4歩。ここまで近づいた時、順調すぎるとレイヤーは感じた。そこにはほくそ笑むディエナの顔がある。

 レーヴァンティンの切っ先がまさに届かんとするその時、ディエナの姿が掻き消えた。そして最初にレイヤーが攻撃を始めた場所に出現したのだ。


「転移! わざと攻めさせて!」

「一部の演算をそっちに割いたんだよ。残念でした、最初からやり直しだね!」

「それはお前だ!」


 ディエナの集めた魔力めがけて、光線が放たれた。グウェンドルフの全開のブレスが、放たれんとする魔力に向けて発射されたのだ。

 だがそれも魔力の奔流に阻まれ、十分な効果を発揮するには至らない。


「くっ、だめか!」

「甘い! 魔法が真竜ペットの一撃ごときで揺らぐわけがない!」

「なら、お前を殺す」


 ディエナの危機感知能力が、最大の警鐘を鳴らした。24歩あるはずの間合いが、一気に零になったと感じる。レイヤーがするのは剣を鞘に収めるように構え、低くする姿勢。それがラインの居合と同じ構えであると、ディエナが知る由もない。ただ、ディエナが持つ危機感知能力がその威力を報せていた。



続く

次回投稿は、10/2(金)18:00です。

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