戦争と平和、その592~解ける封印⑫~
「(なんだったんだろう・・・自分でも理解できない言葉を叫んだ・・・いや、その瞬間は確かに理解したんだけど。理解しない方がいいのかな)」
「レイヤー、聞いてる?」
「うん? ああ、ごめん。なんだっけ?」
話を聞いていないレイヤーに、ルナティカが呆れた。
「ここからどうやって帰るか。方法は?」
「いや、何も考えてない。そもそもなんでここにいるの?」
「あなたが床に大穴を開けたから、落ちそうになるレイヤーを捕まえた。融けた床で焼け焦げないかどうかに必死で、つかまるとこもないし、飛ぶしかなかった」
「そっか、それはごめんよ。帰る方法は――おそらくあるけど、この惨状じゃあね」
レイヤーが腰に手を当てて呆れていた。自分がやったことには間違いないが、下層の建物は見える範囲でほぼ原形をとどめていなかった。不思議と下層の建物を見ればある程度の意味はわかったし、そこから想定される設備を見れば、帰還する方法もわかるだろう。
ただし、設備が生きていれば、の話になる。
「とにかく、ここにいてもしょうがない。先に進もう。できればさらに地下に行く場所を見つけたい」
「そこには何が?」
「この遺跡の本体――核があると思う。そこまでいけばなんとかなるはず」
「了解。それで、あれは何?」
ルナティカが上空を指さすと、先ほどまでは中層の床が天井として見えていたのに、それらの間に電気のようなものがパチパチと瞬き、天井が見えなくなっていた。
また水のような膜も見えていたのだが、それに光が触れると、中で泳いでいた生物たちが硬直し、全て動かなくなっていった。
「雷・・・みたいだね」
「天井が全て雷になってる。しかも下がってきてるように見える」
「・・・いや、下がってきているよ。おそらくは遺跡の自浄作用だ」
「自浄作用?」
「侵入者を強制的に排除するんだ。だけど、遺跡の中にいる生物まで排除するなんて・・・遺跡の核に損傷があったのかもしれない」
「損傷?」
「・・・僕のせいだろうね」
レイヤーがきまり悪そうにしたが、事態はそれどころではなかった。それは一面雷の海のようになり、徐々に迫ってきているのは明らかだった。もういつ地表にまで到達するのかわからない。
「ルナ、急ぐよ!」
「了解!」
「ところがどっこい、そういうわけにはいかないんだなぁ~」
レイヤーの目の前に現れたのは、青い髪の半裸の女性。ほぼ局部しか隠さないような衣服をしており、レイヤーとルナティカが驚いたのを見て、女性は先に発言した。
「アタシの衣服について、とやかく言うのは無し! アタシだってこんな予定じゃなかったんだから!」
「・・・痴女?」
「ちがぁう! 体に自信があるから、出しても恥ずかしくはないけども!」
「遺跡の管理者――いや、違う。もっと上位の存在? でもそれって――」
レイヤーの反応を見て、女性は面白そうに企み深そうに笑った。
「君、面白いねぇ。その反応、アタシのことがわかる? いや、確信はないけど、本能で察してるのか。なるほど、正体を確認してから抹消しろ、か。命令の意味がわかったよ」
「あなたは敵? それとも」
「敵、ではありたくなかったんだけどねぇ。望んでないけど敵になったってところかな。本来は争いを止める側なのだけども。手違いで出てきたのかもしれないけど、正式な命令がある以上、戦わざるをえないのが悲しいよね」
女性から殺気が漏れだし始めた。感じ取ったレイヤーとルナティカが構えると、女性は快活に笑ってみせた。
「アタシは昼と水と調停を司る第7使徒、ディエナ。ディエナ・アープが法の裁きを下します。抵抗は無意味、せめて安らかな死を!」
「だからといって、そう簡単に死んでたまるか!」
レイヤーがレーヴァンティンを構えて斬りかかったが、その突進が圧だけで止められていた。ディエナから凄まじい魔力が放出されたためだ。
続く
次回投稿は、9/28(月)18:00です。