戦争と平和、その589~解ける封印⑨~
「そんなに狼狽えるなよ、最強の魔人が聞いて呆れるよぉ」
「全盛期のウッコを知らぬから言える! 空と大地を何度焼いても足りぬほどの残虐さを持ち合わせた魔獣ぞ!? 目覚めたてならまだしも、全盛期のあやつを誰が抑えられると言うのか!」
「それに関しては、ちょっとした疑問と勝算があるんだよねぇ。ドゥームと一緒に逃げるつもりだったけど、ちょっと事情が変わったな。皆、ボクの話を聞いてもらってもいいかな? そこにいて呆然としているライフレスもね」
「俺にも協力しろと言うのか?」
「キミだけじゃなくて、全員だよ。手数は多いほどよいだろうから。ヘードネカ・・・は、もういないか」
「姫様!」
「なに?」
ソールカの傍にはヴァイカが合流していたが、ソールカが一瞬目を放した隙にヘードネカの姿は消えていた。動いた気配はなく、ただ転移魔術の残滓が微かにあったことにアルフィリースは気付いたが、誰がやったかまではわからなかった。
そして中層の管理者が残った全員を集めると、作戦を話し始めていた。その内容に誰しもが驚きの表情を隠せずにいたが、アルフィリースだけは得心がいったように、頷いていた。
***
「う・・・あ・・・」
「ルナ」
「か、体がバラバラになりそうだ」
「ルナ、これを飲んで」
レイヤーが保存していた水を摂取すると、真っ白だったルナティカの表情に赤みが戻った。
ルナティカは起き上がると、握力や体の動きを確かめた。
「ふむ、動くようになった・・・何を飲んだ?」
「ここで作られていた回復薬さ。いくらか取れたから使ってみたんだけど、効果があってよかった」
「このようなものを作っていたのか?」
「だろうね。昔の人達は魔力や体力すら、薬みたいなもので回復してたみたいだ。怪我も病気もほとんどしなかったろうね。ひょっとすると寿命すら伸ばせたのかも」
「人の法則に反する所業だ」
ルナティカがやや憤然とした表情で告げたが、レイヤーは小さく笑っていた。
「昔の人はそれに抗いたかったのかな。争いがやんで挑む相手がいなくなれば、人間の持っている生命力ってそっちに向かうのかもしれないね」
「それはそうと、ハンスヴルは?」
「もういない。多分――」
レイヤーが指さした方向に、うっすらと光る物体が宙に浮いていた。かなり離れた距離ではあるが、ルナティカには目を凝らさなくても、既に相手がなんであるかが見えていた。
「さっきの二体」
「彼らが来る前に目が覚めて幸いだ。ルナ、調子は?」
「絶好調。今なら、軍隊を相手にしても負けない気がする」
「僕もだよ。どうやら、何かしらの力を継承したみたいだね」
レイヤーも手を握るようにして、自分が手にした力を確かめる。ルナティカはその場で軽く飛んだが、一際強く飛ぶと、レイヤーの頭よりも高く飛んでいた。
「羽が生えたみたい。軽い、力を試してみたい」
「絶好の相手が来るさ。薙刀の相手はまかせてもいい?
「任された。ハンスヴルが足止めをしてくれたみたい」
「だね」
ソルジャーの光の薙刀には、ハンスヴルが串刺しになっていた。だがその表情は笑顔で、道化師の様な作った笑顔ではなく、安堵の表情で微笑みながら死んでいた。
コマンダーとともに近づいてきたソルジャーが停止すると、レイヤーとルナティカが軽く足踏みを始める。
「一気にケリをつけるよ。長期戦は不利だ」
「同意」
「ガ、ガ・・・目標敵性体を発見、消去、消去」
「了解」
ソルジャーが光の薙刀の出力を上げると、串刺しにされていたハンスヴルの死体が燃え上がった。それを合図に、ルナティカとレイヤーが弾けるように互いに距離を取る。
「右」
「上だ」
ルナティカとレイヤーの近くで球体から衝撃波が放たれたが、彼らは一瞬で加速して衝撃波を振り切った。その動きを見て、コマンダーの目が点滅する。
「敵性体、能力の向上を確認。演算を修正、修正、修正」
「そんな時間、与えるか!」
レイヤーがレーヴァンティンを一閃し、コマンダーを近くのタンクに叩きつけた。コマンダーは光牙剣を咄嗟に出して応じたが、レイヤーの圧力にタンクに押し込まれていく。
ソルジャーが加勢に入ろうとして、その背後にルナティカが回り込んだ。
「お前の相手はこっち」
レイヤーから借りたティルフィングで、ソルジャーの背後を滅多切りにするルナティカ。そのうちの関節を狙った一撃が、ソルジャーに深く傷を与えた。ソルジャーの薙刀を持つ手が下がり、修正に苦慮する様が見て取れる。
続く
次回投稿は、9/22(火)19:00です。