戦争と平和、その587~解ける封印⑦~
「・・・そうか、君は・・・」
「ボクの顔に何か?」
「いや・・・いい。残念ながら、それを聞きだす時間的余裕はなかった。僕が知ることができたのは、転移魔術の構成と応用、オーランゼブルの精神束縛の魔術の使用履歴と方法、僕の起源と闇魔術の応用、それに下層の管理者のことくらいさ」
「へえ。それだけ知ることができたのなら、キミの目標には届くのかな? やりたいことは、オーランゼブルへの復讐かい?」
中層の管理者の質問に、ドゥームは澱みなく答える。
「それが最優先だ。それと前後してジェイクをゆっくり始末しながら、リサちゃんと遊ぶ。それが終わったら――遺跡巡りでもしようかな」
「へぇ、どういった風の吹き回し?」
「僕も考えるところがあったんだよ。下層の叡智に触れて、世界の広さを知った。人間で遊ぶのもやめるつもりはないけど、それと同じくらいやりたいことができたのさ」
「ふーん、ボクは元々そのつもりだったから、今の研究が終わったら一緒に旅をするのもいいかもねぇ」
「旅は道づれ、世は情けって?」
「ボクたちが通ったら、世は過酷だよ」
中層の管理者の言葉に、ドゥームが笑う。
「その通りだ。でも、君の『 』は完成するの?」
「あと一年もあればおおよそね。幸いにして、中層に研究対象は山のようにあるから。それらのデータを解析するだけでもあと半年。実験に踏み切れば、進行は早いと思うよ? 下層の叡智に触れれば一瞬だったかもしれないのに、惜しいことをしたな。好機は今しかなかったのにさ」
「下層は高温洗浄されているそうだ。しばらくは誰も入れないってさ」
「ふーん、さっきの振動のせいかな。中層でとんでもないことをしでかした馬鹿がいたみたいだからね」
「とんでもないこと?」
「中層をぶち破って、下層に被害を出したのさ。おおわらわだよ」
中層の管理者がお手上げのポーズをする。
「おかげでウッコが大怪我を負って動けなくなるから、あんな得体のしれない相手が近づいてさ・・・」
「得体のしれない?」
「銀の髪の不気味な女さ。あいつ、ウッコを元に戻して何をしたいのやら。でもその能力が面白そうだったから、ティタニアにも応用できないかと思って――」
中層の管理者が自分の考えを伝えようとした時に、ソールカとヘードネカの戦いが激化した。ソールカが光の塊を作り出し、それを蹴ると光線が何十も放たれ、ヘードネカに襲い掛かる。ヘードネカは残像を残すほどの速度でそれらを躱すと、炎の鳥と風の渦を合わせて炎の渦を作り出し、ソールカを攻撃した。
ソールカは難なく避けるが、炎の渦はそのまま形を維持してソールカを追いかける。
「その程度、光の速度で動く私に当たるものか!」
「光の速度で動けると言ったって、狭い場所じゃあ十分に動けないでしょ? せいぜい音よりちょっと早く動ければましな方だわ」
ヘードネカがソールカに肉薄する。ソールカと互角に打ち合いながら、その顔は楽しそうに笑っていた。
「それに、いくら早く動けたって、その場からいなくなるわけじゃない。ならば、こんなのはどう?」
ヘードネカが作り出した炎の渦が分かれ、さらに大きくなり空間を埋め尽くし始めていた。逃げ場がなくなったことにソールカが気付いた。
「これは・・・」
「中には金属の欠片も同時に舞っているわ。突っ込めば姫様といえでも無事ではすまない。音よりちょっと早く動くくらいなら私でもできる。だから、ここからは純粋な近接技術の勝負」
「それで私に勝てるつもり?」
「それは、やってみなければわからないわ。私も命がけで戦うのは初めてだから。この状況で何とかできないなら、勝ちの目は薄いなぁ」
「いいわ、見てあげる。来なさい!」
「――とまぁ、二人の世界に入ってしまっているわけですが。そろそろ逃げないと、本気でヤバイのです。あっつい!」
宙に浮きながら戦う二人を見て、リサが冷静に断じた。火の手が回りは早く、リサの服の裾を焦がす。二人に戦いは見事だったが、見入っている余裕は周囲の者にはなかった。
中層の管理者もそれを感じたのか、まだその場にいた者たちの所に駆け寄ってきた。
「さて、逃げたい人は手を挙げて? ドゥーム君とボクの転移魔術で飛びますよ」
「残りたい人は自由にどうぞ? 別に止めません」
「私は残ります」
その言葉に逆らったのはティタニア。既に血が止まったのか、血色のよくなったティタニアは即答で二人の申し出を断った。
続く
次回投稿は、9/18(金)19:00です。