戦争と平和、その586~解ける封印⑥~
青年は緊張感が高まる者たちを目の前にして続けた。
「とりあえず、ボクとしてはオーランゼブルがいなくなったから、後は静かにしてくれればそれで問題ないんだよね。見学したいってのなら多少は構わないけど、あまりお勧めはしないよ? ボクの上司に見つかったら間違いなく殺されるからね」
「貴様、その魔力で誰かまだ他にいるというのか?」
「ボクだけじゃないよ、強いのは。他にももっと殺し屋みたいな奴がいるからね。そいつに見つかった方が厄介さ。何の慈悲もなく殺されるよ、ドラグレオや銀の一族みたいに」
「待て、銀の一族をどうしたですって?」
ソールカが聞き捨てならない言葉に反応した。そこで青年ははっと口に手を当てたが、それがわざとらしいと、アルフィリースもラインも気付いていた。
だがソールカの表情は俄に色めき立っていた。
「答えなさい、銀の一族をどうしたと?」
「えーと・・・君が目覚めていなくなったと同時に、ドラグレオが里を訪れてね・・・そのタイミングで里の襲撃を行った奴がいたみたい。で、全滅させたってさ」
「は? 何を戯言を・・・」
「本当よ、ソールカ姫様」
青年の後ろから現れたのは、銀の髪をたなびかせながら現れたヘードネカ。ソールカにしてみれば半日前に顔を合わせたばかりの仲間だったが、その印象が随分と変わっていた。元々長かった髪はさらに長くなり、ひと時に急に大人になったような印象すら受けた。
ヘードネカはくすりと笑うと、中層の管理者の言葉を肯定した。
「もう里はないわ、私を除いて全滅しちゃった。だからもう生きているのは、ソールカ姫様、私、ヴァイカ、チャスカ、それになんだっけ? 弱っちい二人と、あとはある程度外に散っていた面子くらいかなぁ。あ、混血児たちは何人いるのか知らないけどね」
「な・・・なんですって!? それでヘードネカ、あなたは何をしているの?」
「私、どうやら銀の一族が合わないみたい。だから敵に回るね、姫様?」
ヘードネカの姿が消えると、ソールカの目の前に出現して打ち合っていた。衝撃波が起こり、周囲の人間たちが思わず飛び退く。
ソールカの表情を見る限りヘードネカを押しのけようとしているが、それが適わないようだ。ヘードネカがうっとりとした表情で語る。
「それに番も見つけちゃったし。一目惚れってやつ? 愛に生きるのも悪くないかなって」
「ヘードネカ、あなたは!」
「姫様、今の私はちょっと強いよ? 今なら姫様と良い勝負できるかも。始祖の戦姫たちの力って、こういうものなんだなって見せてもらったから!」
ヘードネカから凄まじい気が立ち上る。そこに突然巨獣が出現したかのような存在感に、全員が蒼ざめた。
ソールカの表情も一気に真剣に変わる。
「ヘードネカ、その力はいったい!?」
「退屈だったんだよね、ずっとさぁ。里の仲間はそれなりに強いけど、ヴァイカ以外にまともに戦えそうなのはいないし。ヴァイカは生真面目過ぎて手加減とかできないから、戦えば殺し合い以外にならないし。プラテカ姉様が強かった時はよかったけど、力を失っちゃったから。だから初代の戦姫最強のソールカ姫様なら、と思ったんだけど・・・ねえ、私と全盛期のプラテカ姉様――戦記で一、二を争った姉妹と――どっちが強い!?」
ヘードネカが突き出した左腕から風の渦が発生し、ソールカに襲い掛かる。風に呑まれながらもソールカは耐えるが、そこにヘードネカの蹴りで発生した竜巻がさらに襲い掛かった。
突如発生した凄まじい戦いにその場にいた者たちは距離を取る。ドゥームは中層の管理者の傍にするりとよると、肩を掴んで自分の方に向かせていた。
「おい、ドラグレオをどうしたって?」
「知らないね、ボクだって報告をちゃんと受けたわけじゃない。どうやら逃げ出したようだけど、それなりの手傷は負っているはずだ」
「あいつがそれくらいで死ぬタマか!」
「同感だよ。だけど、いかに生命力の塊である彼と言っても、一緒にいるのが死の御子じゃねぇ。いつかその生命力も尽きるってものさ。
それより一つ聞きたいんだが、君、下層の叡智に触れたんだよね?『 』はあった?」
その質問を聞いて、ドゥームは思うところがあったのか、中層の管理者の顔をまじまじと見た。そして怪訝そうな表情をすると、一歩後ずさっていた。
続く
次回投稿は、9/16(水)19:00です。