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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2049/2685

戦争と平和、その585~解ける封印⑤~

「姉上!」

「?」


 ドルトムントの全力の一撃。かつてライフレス麾下の将軍として大陸に名を轟かせた将軍の全力の一撃すら、小首を傾げながらやすやすと受け止めるシェリー。

 だがドルトムントは体格で押し込みながら、激しい鍔迫り合いに持っていき弾かれないように堪えていた。至近距離で鎧のドルトムントが叫ぶ。


「私をお忘れか、姉上! 大陸にたった二人、最後の闇人として残された我々の絆を! 姉上のほどの才能には恵まれなかったが、二人で研鑽を積んだ日々を、グラハムと旅した日々のことをお忘れか!」

「・・・」

「姉上! グラハムに仕え、彼に見初められたことすらお忘れか!」

「シェリー、殺すな」


 オーランゼブルの命令に従い、ドルトムントとの鍔迫り合いで動けないはずのシェリーの姿がするりと消えた。

 そして背後に現れたかと思うと、鎧の四肢を一瞬で切り落とし、中の本体には傷一つ就けずに鎧を一刀両断していた。鎧ががらんがらんと派手な音をたてて崩れ、中にいた少年の姿のドルトムントが落下する。その眼前に何の慈悲もなく剣を突きつけるシェリー。


「姉上・・・」


 呆然と見上げるドルトムントに、オーランゼブルが悲痛な言葉を継げた。


「専守防衛の命令だけにしておいてよかったな。頭に血が上った貴様では、シェリーと10合と打ち合うことすら不可能だろう。シェリー、撤退だ」

「待て、シェリー。お前なのか? 顔を見せてくれ」


 その言葉にシェリーが反応した。声の主はライフレス。その顔はやや呆けたように。しかし忘れていた大切な何かを見つけたかのように、手を伸ばしていた。

 隣にいたエルリッチはライフレスのそのような表情を始めてみた。今まで見た中では、もっとも人間らしい表情だと思ったからだ。

 そのライフレスの言葉にもシェリーの表情は変わることなく、ただライフレスの方を見ただけで、それ以上の反応することはなかった。だがドルトムントとドゥームは見た。ドルトムントに突きつけた剣が、確かに揺れていたのを。

 オーランゼブルと、屍術で動く三体だけがその場から転移で消えた。後に残された者は、呆然と転移魔術が発動したその痕跡を見つめるだけだった。


「シェリー・・・馬鹿な、俺はどうして忘れていた・・・」


 呆然として隙だらけなライフレスを見て、ドゥームが頭をぐしゃぐしゃと掻いた。


「オーランゼブルの精神束縛の影響じゃん? そもそも肉体を捨てて魔術で構成された体に乗り換えた時に記憶もあやふやになった部分があるだろうけど、それだけじゃあなさそうだぜ? ブラディマリアも、ティタニアもそうだろ?」

「うむ、妾も一部記憶が曖昧だった部分が戻っておる。かつての魔人との交流などがの。幼き頃の記憶が一部戻っておるわ」

「・・・私は戻ってほしくない記憶が多いですね。それでも、忘れたままよりはマシかもしれません。おかげさまで、憎悪を忘れずにいられそうです」


 ブラディマリアはすっきりとした表情になり、どこか慈愛を滲ませる表情になっていた。一方でティタニアは研ぎ澄ました刃のように、鋭い表情になっていた。彼らを見て、ドゥームは満足そうに微笑んだ。


「よぅし、これで僕の目的は一つ果たせたね。一つ確認しておきたいんだけど、これでオーランゼブルに協力したりはしないよね?」

「当然じゃ。むしろ殺したくてうずうずしておるわ。あやつなぞに精神束縛されたこと自体が恥よ。可能であるなら、今すぐにでも殺してやりたいぞえ」

「そこの魔人に同意するのは癪ですが、私もそうですね。今はさらに差し迫った問題がありますが」


 ブラディマリアとティタニアの返答を聞いて、ドゥームは頷いた。


「うんうん、そうだよね。僕も同じ気持ちだよ。だけどそれぞれ、今は別にやりたいことがある。そうだろ?」

「むぅ・・・まぁ、そうじゃな」

「ええ、確かに」

「オーランゼブルは僕がやる、今回のことは貸し一つだ。必要な時に、君たちの手助けが欲しい。どうだろう?」


 ドゥームの提案に、素直には頷かない二人。だが、互いに表情を見合わせて頷いた。


「よかろう。貴様の計画に乗るのは癪じゃが、協力してやらぬでもない」

「私も構いませんよ。今の問題が片付いたら、ですが」

「ならその時になったら連絡するよ。そしてティタニアの問題を解決するのには、一つ案がある」

「はいはーい、そこでボクの出番だねぇ」


 突然明るい声で出現したのは、中層の管理者を名乗った男だった。その登場に、彼の存在を知らぬ者は、いきなり冷や水を背中に浴びせられたように緊張感が増した。

 ブラディマリアと浄儀白楽は、彼の出現に青ざめていた。


「き、さま・・・その魔力はいったい?」

「・・・化け物め」

「さすがにここにいる人たちには、隠してもわかっちゃうなぁ? オーランゼブルを殺す手伝いってことで案に乗ったけど、逃げられちゃったか」


 下をぺろりと出すひょうきんな仕草が、妙に癇に障るとアルフィリースは彼を見ていて感じた。外見上はとても美しい青年なのに、彼の態度にはどこにも真実がないと直感したのだ。



続く

次回投稿は、9/14(月)19:00です。

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