表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2047/2685

戦争と平和、その583~解ける封印③~

 一番初めに反応したのはアルフィリースだ。


「いきなり突飛もない申し出ね。ここにオーランゼブルがいるってこと?」

「その通りさ」

「あなたは彼の仲間でしょう? どうしてそんなことを?」

「よせよ。あいつが精神束縛で僕たちを縛っていることなんて、もう知っているだろう? 精神束縛を僕は解いた、そしてそんな真似をした奴を許すことはできない。それのどこに疑問がある?」

「なぜ今なの? ウッコへの対応が先じゃなくて?」

「今だからさ」


 ドゥームが手を広げて事態を強調する。


「全員がウッコを何とかしようともがいている。だがオーランゼブルは違う。いや、ウッコを倒そうとしているのかもしれないが、それ以上に奴はこの遺跡の奥深くに行こうとしているはずだ。ウッコなんて最悪、放っておいてもいいかもしれないくらいに思っているかも」

「全部推測だわ」

「そうだ。だけどそれなりに根拠はある。オーランゼブルはかつての空と大地を焼いた戦いを知っている。それなのに、誰にも呼びかけることなくここに赴いた。かつて幾千幾万の魔人と真竜がいて、それでも勝てなかった相手だぞ? そんな相手に手持ちの駒だけで挑もうとするか? ありえないね。

 だから思うのさ。オーランゼブルがここに赴いたのは、最初はウッコを倒すためだったとしても、今じゃ遺跡の調査の方が目的なんじゃないかってね。遺跡に入って奴は思ったろうさ。これほどの規模の遺跡が、ほとんど迎撃機構も稼働しないままに放置されている。人間に例えりゃ、絶世の美女が布きれ一枚で自分の寝室に横たわっているのと同じだぜ? 据え膳食わぬは男の恥って言うだろ? それと同じだよ。

 だから、今なんだ。目の前に差し出されたご馳走に夢中になっている今だから、隙が突ける。それだけの手札と、仲間がいるだろ?」

「・・・仲間になったつもりはないわ。でも、提案は面白いと思う」

「アルフィ?」


 リサとラーナが思わずアルフィリースの腕をつかんだが、アルフィリースは困惑と恐怖を混ぜたような顔で彼女たちを振り返った。その表情に、アルフィリースですら決めかねていることを悟る二人。

 一方、ドゥームの行動は早かった。


「実は、オーランゼブルはここからさほど離れていない場所にいる。近くには浄儀白楽と、ブラディマリアも。さらにはティタニアも」

「なんですって!?」

「驚くのも無理はない、僕だってさっき気付いた。そしてこの計画を思い立ったんだ。だがやってみる価値はある。君だって、君の運命を捻じ曲げた奴には恨みがあるだろう?」

「・・・どういうことかしら?」


 アルフィリースは口元がひくつきそうになるのを、必死でこらえた。ドゥームがくすりと笑う。


「すっとぼけるならそれもいいさ、だが一応僕もわかっているつもりだ。結果的に君にとっては有利に作用しているかもしれないが、君の平穏を――平凡な人生を奪ったことには違いない。何も考えることがないわけではないだろう?」

「・・・」

「だんまりか、慎重なのはいいけどね。だけど――」

「アルフィリース、こんな奴の言うことを聞く必要はねぇ。こいつは旨そうに見せかけて、自分の利益になることしか考えてねぇやつだ。詐欺師って奴の目つきによく似てらぁ。口車に乗れば、絶対に後悔するぜ?」


 ラインがすっと入ってきてアルフィリースに告げた。ラインは既にダンススレイブに手をかけており、ドゥームとの間合いを測っていた。だがドゥームはするりと下がって、距離を離した。


「(こいつ、俺の間合いを・・・)」

「ま、無理にとは言わない。僕自身もオーランゼブルをどうにかする計画を立てているし、別にここじゃなくてもいいことだ。だが少なくともブラディマリアとライフレス、それにティタニアを完全にオーランゼブルの影響かから引き離すことは、君たちにとって――いや、アルフィリースにとって最も益があると思うけどね。オーランゼブルが執着しうるだけの『人間』は、君だけなんだから」

「・・・やるかどうかは、条件と手段によるわ。話しなさい」


 仲間の大半は意外そうにアルフィリースを見たが、ドゥームはほくそ笑んで話し始めた。


***


 オーランゼブルに一撃を加えたアルフィリースを見て、ドゥームは冷静に状況を分析していた。


「(さぁて、ここまでは上出来。予想外なのは、オーランゼブルの精神束縛の効果範囲が知っているものよりも長いこと。僕も解珠ディスペルオーブや対策なしに近づいていたら、あっという間に絡めとられていたね。アルフィリースたちが耐性を持っていたのは嬉しい誤算だし、ブラディマリア、ティタニア、ライフレスたちを完全に精神束縛から解放することには成功した。残りはドラグレオだけど、あいつはどこにいるのかな。まぁ、これで来たるべき時に備えて、オーランゼブルの戦力を削ぐことには成功したはずなんだけど――)」


 ドゥームの表情はシェリーを見た時に、一挙に強張った。ドゥームは剣を扱うわけではないが、アルフィリースを弾き飛ばした一振りを見ただけで、技量のほどは見当がつく。これもティタニアの剣を受け続けた成果といえるが下層の門番よりも鋭い剣筋に見えたからだ。



続く

次回投稿は、9/10(木)20:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ