戦争と平和、その582~解ける封印②~
「油断したなぁ、オーランゼブル?」
「貴様、ドゥーム!」
一瞬の暗転の後、オーランゼブルはライフレス、ブラディマリアの背後に佇むドゥームに気付いた。
そのドゥームがライフレス、ブラディマリアの背中に手を当て、怪しく紫に光る針のような四角錘を抜きだしたことに驚愕した。
「馬鹿な!? 貴様がどうして私の精神束縛の解除方法を知っている?」
「馬鹿はお前だ、オーランゼブル。僕は触れたぞ、この遺跡の一部にな! そこで問い合わせたのさ、お前がかつて精神束縛を使った際の記録、もしくは解除方法そのものを知っているかと。
精神束縛を解珠そのもので完全に解除できなかった段階でおかしいとは思っていたが、お前は遺跡から得た知識の一部を使っていたんだろ? 同じ遺跡ならまさか、とは思っていたが、攻略方法はちゃんとあったぞ!」
「ぬぅ、貴様如きが遺跡の叡智に触れるとは!」
その時オーランゼブルはかつてユグドラシルに言われたことを思い出した。あまり人間を舐めるな、と。ドゥームは一部しか人間ではないが、確かにオーランゼブル自身にも予測できない動きをすることがある。そもそもドゥームの発生の根源自体が予想外だったのだ。さもあらん、と一部で考え直した直後だった。
「オーランゼブル!」
「何っ!?」
まったくの別方向から声がかかり振り向いた瞬間、そこにティタニアが構えから何かを振り下ろす瞬間を見た。オーランゼブルは反射的に転移魔術を起動させ、立ち位置をずらした。
瞬間的な起動では、立ち位置をずらすのが精一杯。だがそれだけでもしなければ確実に死んでいたと断言できる。実際、オーランゼブルのローブは裂かれ、肩口からは血が噴き出した。
「ぐおぅ!」
「外したか!」
ティタニアが悔しがる。格闘家バスケスを仕留めた必殺の一撃だったが、オーランゼブルの生存本能が上回る。だがそこに、さらに背後から迫る者がいた。
オーランゼブルは魔術を起動させる暇もなく、右腕を差し出した。そこに、アルフィリースの剣が深々と突き刺さる。
「防がれた!」
「貴様、なぜ動ける?」
「さぁ、なんででしょうね?」
「背後から襲い掛かるとは、恥知らずめ!」
「私は傭兵だから、そんなこと気にしないわ。それに人の精神を弄ぶあなたにだけは言われたくない!」
アルフィリースとオーランゼブルが次の行動を起こす前に、割って入ったのはオーランゼブルが操る傀儡の一つであるシェリーだった。
シェリーはアルフィリースを一撃で弾き飛ばすと、オーランゼブルに突き刺さった剣を強引に引き抜いた。オーランゼブルが回復魔術を事故に施す間、先ほど精神束縛を試みたアルフィリースの仲間が、よろめきながらも立ち上がっていることを確認した。
「(馬鹿な、人間如きが一瞬とはいえ、私の精神束縛の抵抗するだと? かつてライフレスやブラディマリアですらろくに抵抗もできなかったものを、やつらは抵抗するというのか? ドラグレオは別格に精神も頑強だったが、ありえんことだ。誰に鍛えられた? それとも奴らだけが特別だというのか?)」
導師アースガルが彼らを鍛えたことなど、オーランゼブルは知りもしない。そしてその鍛えられた仲間が、この場面であえて先頭に立っていたことも。
オーランゼブルは知らない。この状況が一人の意志の元、計画通りに行われていることに。事の起こりは半刻近く前――
***
「アルフィリース、ちょっと協力してくれないか?」
「うわあっ!?」
周囲を警戒しながら進むアルフィリースの目の前に、突然ドゥームとその仲間が転移で出現した。当然仲間が一斉に武器を構えたが、それはドゥームの仲間たちも同じだった。
「ドゥーム、何のつもりだか?」
「いきなり帰って来たと思ったら、転移でここに移動するなんて、何を考えているの?」
「それはこっちのセリフよ! いきなりなんなの?」
「オーランゼブルを殺す」
ドゥームの言葉に、その場の全員が沈黙した。その提案は突飛なかったが、全員の興味を引くに十分だったからだ。
続く
次回投稿は9/8(火)20:00です。