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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2039/2685

戦争と平和、その575~廃棄遺跡中層㉗~

 レイヤーが向き直った先から現れたのは、無数のマリオネットビースト。今度は四足歩行だけではなく、二足歩行の猿のような種類や、四足歩行の巨大な種類や足が長い個体、さらには巨大な個体など、多様な形態を整えていた。

 さらにその背後には、一つ目の赤い鎧騎士が控えている。軍の様相を呈する相手に、レイヤーがふぅー、と息を吸い込む。


「追跡型だけでなく、武器を使いこなす万能型、突貫を得意とする強襲型、それに重量に長けた武器を扱う重装型、それにマッキナ四体に指揮官型か。足がない奴がいないのは幸いか・・・?」

「レイヤー」


 ルナティカの心配そうな声を聴いて、レイヤーが微笑んだ。


「大丈夫だ、規模は中隊――200体程度しかいない。それなら僕の方がはるかに上だ。レーヴァンティンの力を無駄に使うこともない。接近戦だけで仕留められる」

「そうは言っても」

「大丈夫、信じて」


 ティタニアの声にも力強い言葉を返し、レイヤーが地面を蹴った。

 レイヤーが向かってくるのに反応した絡繰り仕掛けの中隊が、一斉にその視線をレイヤーに向けて隊列を整えた。指揮官が挙げた手を下ろすと、まずは戦闘の犬型のビーストが一斉に空気の塊を発射する。

 一列に並んで斉射されれば、躱す場所はない。飛べば他の個体の餌食。だがレイヤーはふっと笑って、速度を落とさぬまま空気の塊の下を滑り抜けた。


「進歩がないね。綺麗に並ぶと、一斉に首を狩ってくださいと言わんばかりじゃないか」


 レイヤーの一閃で、並んでいたビーストの首が10以上飛んだ。想定外の動きだったのか、ビーストたちの反応が数瞬遅れる。だがレイヤーはそれを見逃さず、飛びこんで乱戦に持ち込んだ。


「反応が遅い!」


 レーヴァンティンは力を抑えているとはいえ、立ち上る炎は一振りするごとに軌道上にあるビーストを焼いた。

 一振りで10を超えるビーストが叩き切られ、あるいは仲間ごとレイヤーを攻撃しようとして、中隊は大混乱をきたした。

 猿型のビーストが手に持ったレーザー銃を撃ったが、レイヤーは強襲型の大型の個体の陰に隠れてやり過ごす。強襲型の足が一本レーザーで焼き切れ、体勢を崩して周囲の仲間を巻き込んだ。そこに足長の個体が側面に用意していた大砲を打ち込むが、舞った煙の中から炎の剣筋が数本走ると、足長の個体の長い首は全て落ちていた。

 首が落ちた足長の個体に飛び乗るようにレイヤーが姿を現すと、今度はそちらに一斉攻撃が行われる。その瞬間を見逃さず、レイヤーはどこから攻撃が飛んできたかを一瞬で把握し、再び煙の中に飛びこみながら、攻撃が飛んできた方向に向けて正確にレーヴァンティンを振るった。

 相手は感情のないマリオネットビーストゆえ、悲鳴はない。だが戦闘開始の攻撃が嵐のように巻き起こったかと思ったら、瞬く間に消えていった。その抵抗のあえなさを見ていれば、敵がどんな速度で減っているかは一目瞭然だった。


「あれがレーヴァンティンの威力。さっきの獣たちが、薪でも切るかのように倒れていく」

「・・・あんなものではありません、あれでもレーヴァンティンの能力を抑えています。むしろあの速度、あの判断力。あれではレイヤーの方がよほど人間ではない。あんな動きができる人間を私は見たことがない。

 ルナティカとやら、レイヤーはいったい何なのです? あの俊敏性、視力、状況判断、戦闘力。もはや人間に与えられた能力を大幅に振り切っていますよ」

「私だってあんなレイヤーは知らない。多分レイヤー自身もわかっていない」

「?」

「遺跡――遺跡が何かをレイヤーに教えようとしている。それはおそらく私にも、あなたにも。立ち入った者に影響を与えるのが遺跡なら、私たちはどうなる? アルフィリースは? リサは?」


 ルナティカもまたレイヤーほどではないにしろ、自分の変化を徐々に感じ取っていた。そもそもレイヤーの戦闘能力の上昇も不可思議だが、レイヤーが戦いで何をしているのか、何をしようとしているのかが理解できるようになってきているのだ。

 過ぎた力にルナティカが恐怖を抱く頃、レイヤーが相手の指揮官と交戦し、一合と交えぬまま相手を袈裟懸けに切り捨てた。相手が最後の反撃をする前にさらに八つ裂くと、指揮官は盛大に爆発した。

 その爆風すらレーヴァンティンから立ち上る蒸気で無効化し、レイヤーがレーヴァンティンを一振りして、治まりを確認した。


「うん、やはり問題ない。相手の命令系統が単純で助かった。レーヴァンティンも大人しく振るわれてくれている」

「なんと――30数えるほども戦っていないのでは」

「巨獣を倒す時のプログラムで起動して、そのまま突然出現した僕と戦ったんだ。命令を書き換える暇もなかったんだろう、不運だったね。

 でも、さらに上の指揮官機が来たらこうはいかないかもしれない。今のうちにウッコを――」


 そう言いかけて、レイヤーが舌打ちした。



続く

次回投稿は、8/25(火)21:00です。

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