戦争と平和、その574~廃棄遺跡中層㉖~
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「さて、次はどうしたものかな」
ティタニアを助け起こし、レイヤーとルナティカは遺跡の中層を彷徨う。ティタニアは青い顔をしながらも自力で立ってついてきていたが、レイヤーとルナティカの足取りに徐々に遅れ始めた。
それを見かねたレイヤーがため息交じりに、ティタニアに歩み寄る。
「なんですか? 邪魔なら置いて行ってもらって構いませんが」
「そういうわけにもいかないだろう。失礼するよ」
レイヤーはティタニアをひょいと抱え上げると、そのまま歩き出した。ティタニアの顔が瞬間、真っ赤に上気する。
「な、なななな、何を!?」
「? こうした方が早い」
「だから、邪魔なら置いて行きなさいと!」
「却下。後味が悪い」
臆面もなくティタニアを抱きかかえるレイヤーは、まるで苦にもしていないようだった。ティタニアも確かに限界が近かったので、諦めに近い感情でレイヤーに抱えられるままにした。
それ以上に、混乱してどうしてよいかもわからなかったのかもしれない。ルナティカはそんなティタニアを横目に観察していたが、特に何か感想を告げるわけでもなく、静かに並んで歩いていた。
「レイヤー、次はどこに行く?」
「ティタニアにはあまり時間がなさそうだ。一直線にウッコのところに行こう」
「場所がわかる?」
「さすがに戦闘音は聞こえないけど、さっきから遺跡のセンサーが作動し始めた。場所はわかるよ。それにマリオネットビーストやマッキナが動き始めた。彼らの集まるところに行けば見つかるだろうね」
レイヤーの誘導の元、彼らは一直線にウッコの場所に向かう。時にマリオネットビーストの一団を見かけたが、彼らはレイヤーたちには興味がないのか、少し身を隠すせば攻撃してくることはなかった。
そして彼らは大きな絡繰りが動く部屋に来た。そこでは植物が育っていた形跡があり、また食物が加工されていた場所のようだった。動物が解体され、処理され、最終的に食料になっている工程を彼らは目撃した。穀物は脱穀され、順繰りに加工されていた形跡がある。ただどれも今は動いておらず、既に朽ちていた。
「ここは?」
「製造プラントってところだろうね。器械自体は動くだろうけど、原材料がなければどうしようもないだろう。かつては大量の家畜や、植物が育成されていたのかもしれない」
「つまり、自動的に食料を産生していたと?」
「おそらく」
ティタニアの推論を、レイヤーが肯定した。レイヤーは器械の途中にある箱をこじ開ける。
「それは?」
「いろんな形で保存したんだろうね。これ保存食だ。もうさすがに食べられないけど、適切な形で保存すれば、数年は持ちこたえるだろう」
「数年? そんな技術があれば、飢える国はなくなりますよ?」
「そうできるだけの技術力があったんだよ、きっとね。それどころか、おそらくは天候や気候の操作、大量の家畜に育成、植物の育成すら、完全に管理されていたはずさ。ひょっとしたら、人間の生死すら、ね」
「それは――幸せと言えるのかしら?」
「どうだろうか? 幸せなのかもしれないけど、幸せやありがたみを感じることは少なかったかもしれないね」
「歪んでいる――と感じるのは、私が歪なのでしょうか?」
ティタニアの疑問に2人は答えず、代わりに彼らの視界には戦いの光が入った。ほどなくして戦闘音も響いてくる。
ルナティカが近寄ろうとして、レイヤーに止められた。
「よした方がいい、ルナ。これ以上近寄ると、ウッコの索敵範囲にかかる」
「この距離で? まだ三千歩以上はありそう。それに薄暗いのに」
「相手は普通じゃない。一つの目がちらりとこちらをみたよ。まだ構うほどじゃないけど、もう視認されている。これ以上近づいたら敵とみなされる」
「ウッコの目の動きが見えたのですか? その方がどうかしていると思いますが」
ティタニアの指摘に、レイヤーが笑った。
「そう、どうかしているのは理解しているよ。ここからでもハンスヴルとウッコの戦いが目の前の様に見えるんだから。周囲にはマリオネットビーストがいたけど、全部戦いに巻き込まれて破壊されたようだね。ハンスヴルは凄い。ウッコと互角に渡り合っているよ」
「なんと。それはもう人間を辞めているとしか言いようがありませんね」
「いや――残された命の最後の輝きだからできるんだよ。もういくらももたない。ハンスヴルが倒れたら、ウッコは移動を始めるだろう。できればその一瞬の隙を突きたいけど・・・上手くいかないもんだね」
「?」
「ルナ、ティタニアを任せた。隠れていて」
レイヤーがティルフィングとシェンペェスではなく、レーヴァンティンを手にしていた。その表情が今までにないほど引き締まるのを見て、ルナティカは無言でティタニアを引き取った。
続く
次回投稿は、8/23(日)21:00です。連日投稿になります。