戦争と平和、その572~廃棄遺跡下層⑬~
「この先には何がある?」
「人によりまス」
「ふざけんなよ。下層の核とか、中枢とか、掌握したら自分で操作できるやつがあるんだろ?」
「望むなら、そうでス」
「曖昧だな、どういうことだ?」
「質問の意味がわかりませン。もっと具体的にどーゾ?」
「な、なんてムカつく野郎だ・・・ぶん殴ってやりたい」
「姿のない私を殴れるなラ、ハ、ハ、ハ」
機械が無理に笑ったような合成音声に嘲笑され、ドゥームが思わず壁を叩いた。だが自分の性質を反映していると言われれば、この性格も納得する。そして怒ってばかりでは物事が進まない。
時間はないのだ、効果的に質問しなければと思い直す。
「この浄化だとかなんとは停止できるか?」
「無理でス、管理者権限でもコードの破棄ができませン。これは製作者の権限によるものなので、書き換えは不可能でス」
「遺跡の製作者は何者だ? 死んでいるのか?」
「製作者に関する個人情報は全て秘匿されていまス。生死も不明でス。ただ開発チームの名称だけは記録されており、秘匿コードもありません」
「開発チーム? 製作者は複数人だってのか・・・なんという名称だ?」
「ユグドラシルと言いまス」
その単語に、ドゥームの背筋がざわりとした。
「ユグドラシル・・・だと? あいつと同じ名前だってのか? いや、あいつの名前はアルフィリースがつけたはずだ。偶然か?」
「他にご質問ハ?」
「僕が奥に到達したとする。この遺跡を管理者に変わって支配することは可能か?」
「可能でス」
その回答に指を鳴らして喜ぶドゥームだが、その直後解説者が断りを入れた。
「ただし、あなたの処理能力によりまス。あなたの演算能力はいかほどですか?」
「演算能力だぁ? 知るか、そんなもん!」
「その解答であなたのオツムがわかりましタ。0.7くらいですネ」
「その数字の意味は?」
「平均的な人間を1とした時の数字でス。なお、教育を受けていない幼児と同等でス」
「ぐぎぎぎ・・・なんてムカつくんだ、僕ってやつあ。が、めげないぞ。真面目な話、この遺跡を掌握するのに所要する時間はどのくらいだ?」
「・・・平均的な人間が挑戦すると、処理能力を超えて廃人になりまス。耐えられると仮定して、138年かかりまス。食事も排泄も、呼吸も心臓を動かすことも忘れて、ですガ」
「無理じゃねーか!」
「ですから、管理者にも資格が必要なのでス。この膨大な演算に耐えられる処理能力があるこト。寿命が平均的な人間よりの倍以上あるこト。耐久力はオーガロード以上が望ましイ。あ、オーガロードいませんでしたね、この大陸ハ。えーと・・・真竜と火竜を足して二で割っていただけれバ」
「わかりにくい!」
「なんて程度の低いオツムなんでしょウ。それではこの遺跡に眠る、武器、食料、兵器、実験体の把握をすることなんて、とても無理ではないですカ。当方の計算では、この大陸を720回滅ぼしてあまりある計算なの二。なんてもったいなイ」
とんでもない情報を解説者が与えてきたが、ドゥームもいちいち壁を叩くことにも疲れたので、発想を変えた。もうカウントは1/3近くを消費している。この情報は罠、どのみち現段階では得ることができない、それに得ても意味がないものだ。
ドゥームは世界を滅ぼす気などない。生者がいてこその死者。生者がいない死の世界など、何の面白みもないのだ。世界を滅ぼすような兵器など、手に入れても使いようがない。脅しに使うとして、相手が絶対に屈服する最強な手札を手に入れても、遊戯が面白くなくなるだけだろう。
それに、さっきから回廊の終着点が全く見える気配がない。下手をすると、浄化が始まるまでここに閉じ込められる可能性が出てきた。
「解説者さんよ、質問を変えるぜ。この遺跡の管理者に関する情報と、五賢者、あるいはハイエルフのオーランゼブルに関する情報が欲しい。どのくらいで知ることができる?」
「17秒あれば一般的なことは知ることができまス。タだし、管理者に関しては中層だケ。下層の管理者に関する情報は、ロックがかかっていまス。他に知りたいことハ?」
「御子、前管理者のシモーラ、かつて旧時代のウッコとの戦いの様子と記録、大陸における支配者たちとその情報が欲しい」
「・・・ソれなら、117秒いただきまス。ゴ注文はお決まりですカ?」
「お決まりだよ、さっさと出しやがれ!」
「ヤれやれ、品のないお客様ですネ。お風呂よりも私とハ。ガっつくのはよくありませーン」
「うるさ――おわぁ!?」
その瞬間、ドゥームの脳裏に膨大な情報が流れてきた。
続く
次回投稿は、8/19(水)21:00です。