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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2035/2685

戦争と平和、その571~廃棄遺跡下層⑫~

「今、光が――」

「いや、光じゃない・・・炎だ!」


 ひび割れた隙間からちらりと覗いたのが炎だと思った瞬間、ドゥームはデザイアを抱えてその場を飛び出していた。直後、彼らを襲ったのは先ほどのグウェンドルフの全力の熱線がたき火に思えるほどの劫火。本物の劫火というものは、音や空気、光も闇すらも呑み込んで迫るということを、ドゥームは初めて知った。

 ドゥームが逃げた方向は、ただの勘だった。だがドゥームは賭けに勝った。ドゥームが逃げた方向と反対側の建物は、その原型を残さぬほどに燃え尽き、まるで蝋で作った玩具が融けたかのように無残な姿を晒していた。


「はあっ、はあっ・・・な、なんだったんだ、今のは。あれがウッコの天の火・・・? いや、奴は中層の魔獣だとして、下層の建物を破壊できるのはおかしいぞ・・・」

「ど、ドゥーム、逃げましょう。さすがにもう一撃さっきのが来たら、悪霊でもなんでも消滅するわ」

「わかってる! だけど、何も知りもしないで逃げるのはまっぴらごめんだ! デザイア、君はオシリアたちと合流して、脱出の算段を立てろ。もう来た時の昇降機は使えない。穴が開いたなら、そこから逃げた方が早い。

 あるいは、転移魔術を起動させるかどうかだ。この人数なら、なんとか飛べるだろう」

「ドゥームは?」

「奥に進む! 今の攻撃でさらに先の通路が開いたはずだ。命を賭ける価値はある!」


 ドゥームが決意を述べた瞬間、周囲一帯に大きく不快な音が鳴り響いた。同時に、義務的で冷たい声が響き渡る。


――警告します。アークに損傷を確認しました。この地域は、15分と34秒後に強制閉鎖と浄化を開始します。生存者は『絶対精霊遮断』を起動するか、最寄りのシェルターに退避してください。避難されない場合は、消滅が確定いたします。なお、シェルターは現在十分な食料と空気を確保されておりません。またアークにも十分量の資源とエネルギーが確保されておりません。一度退避されますと、二度と出られない可能性があります。繰り返します。アークに損傷を――


「~~~ちきしょう!」

「ドゥーム、まずいわ」

「先に行け、僕は進む! 800数える間だけ待て!」

「ドゥーム! 間に合わなかったら置いて行くからね!」


 デザイアが叫びながら離れていく。ドゥームも一瞬迷ったが、本能に従い先に進むことにした。

 すると、さらに冷たい声による警告が変化した。


――アークへの侵入者を確認。アークの全能力をもって排除します。管理者不在にて、門番に一時的に全権限と戦闘能力を委譲。多重光学兵器アンサラー荷電粒子砲レールガン黒点剣ブラックライブズ光牙剣ソールファング共鳴結界シンガー光翼ダイダロスの使用を許可します。敵性行動を取る者を殲滅されたし、殲滅されたし、殲滅されたし――


「どれだけ殲滅したいんだよ! 僕のことじゃないだろうなぁ!?」


 ドゥームが怯えながら不平を口にし、そして先ほどまで行く手を阻んでいた扉が融けて歪んでいるのを確認すると、悪霊を手の様に変形させて隙間にねじ込み、強引に開けた。

 そしてさらに奥に進むと、垂直の円筒形の縦穴に入る。おそらくは昇降機があったのだろうが、もう壊れていて作動しない。ドゥームはやむなく魔術で下降したが、その穴は割と深い。


(どれだけ降りるんだ。逃げる時間がなくなるじゃないか・・・)


 ドゥームが焦りながらも下降すると、青白く光る空間に到達する。その空間は下層並みに広く、しかし透明な液体が海のように広がっていた。ドゥームはそっとその水を手に取ったが、手が灼けるような痛みを覚え、それが完全に浄化された聖水と同じようなものだと気付く。

 

「浄化の遺跡・・・だったか? そりゃあ水が聖水になっていても当然か。しかし何もないとでも? それともこの水の下に? そりゃあ無理ってもんだぜ」


 ドゥームが少し悩んでいると、目の前を立方体のようなものが通過していった。ドゥームが顔を上げると、そこには大小様々な形の立方体が上下左右、あるいはもっと複雑な動きでもって空中を行き来しており、ドゥームの目の前で徐々に組みあがって階段のようになった。

 ドゥームが呆然と見つめていると、つながった立方体の中が抜けていき、通路が出現した。それは無機質な外見とは異なり、人々の苦悶の表情が流れるように脈打つ通路だった。


「気持ち悪いな・・・誰の趣味だよ、これ」

「アナタの性質を反映した通路です、文句は自分に言ってくださイ」

「うぉう、喋った?」


 突然の声に驚いたドゥームだが、通路のそこかしこから声は聞こえていた。


「お前が管理者か?」

「イイエ、私はただの解説者でス」

「なるほど。ではこの先にあるものの説明を?」

「ソうでス」


 解説者を名乗る声は、義務的ながらも慇懃に答えた。ドゥームは胡散臭いなと思いながらも、歩きながら質問を続ける。



続く

次回投稿は、8/17(月)21:00です。

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