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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2034/2685

戦争と平和、その570~廃棄遺跡下層⑪~

「ははっ、やってくれたか。ちょろすぎるぜ、真竜よぅ」


 転移先は少し離れた場所に設置していた。猛り狂うグウェンドルフの前では、さしも不死のドゥームも無事生き延びる自信はない。

 ドゥームが成果を確認するため、眼の部分だけを分割してグウェンドルフのブレスが命中した場所に飛ばす。まだグウェンドルフの熱線が外壁を溶かし続け、高温で蒸気が舞う中にドゥームの目が向かう。


「ん~あれほどの威力の割に、被害が大したことがないなぁ。さすが遺跡の金属も並みじゃないか」

「もっと煽る?」

「ああ。できれば、場所はもう少し奥に誘導したいね」


 ドゥームが悪霊を分け、眼の場所に形だけの自分の姿を作ってグウェンドルフに見せた。まだ憤懣やるかたない様で浮遊していたグウェンドルフが、ドゥームの姿を確認するなり、再度ブレスを連射してきた。


「オォオオオ!」

「やめぬかグウェンドルフ、グウェン!」


 ノーティスがついにグウェンドルフの横面に体当たりをかまし、グウェンドルフを建物に叩きつけた。ブレスがあらぬ方向に向き、他の建物や中層の方向に向けて放たれ被害を広げる。

 ノーティスはグウェンドルフの首を足で押さえると、ブレスが吐けないように固定した。


「落ち着け! これ以上被害を広げてどうする!」

「落ち着けだと? これが落ち着いていられるか! サーペントは俺の弟だ! あいつは大海を泳ぐのが何より好きだったのに、それを棄ててすら一人の女を選んだ! それほどの愛を捧げた女と一緒になることを俺もマイアも祝福して――あんな、あんな悪霊なんぞになみされるような人生ではない!」

「馬鹿が! それが事実だとして、貴様が暴虐の限りを尽くしてよい理由にはならん! やるならあの悪霊だけを仕留めろ、他に被害を広げるな! これ以上ブレスを吐けば貴様も自滅だ。あの悪霊の思うつぼだぞ!? それとも、貴様はかつての過ちを再び繰り返すつもりか?」


 ノーティスに指摘されたこと。その言葉ではっと我に返るグウェンドルフ。自らを戒めるように、人間の姿に幻身した。ノーティスも合わせて幻身する。


「・・・すまぬ。同じ過ちを繰り返すところだった」

「わかればいい。ここに他の生物がいないことに感謝するんだな。あの悪霊はかなり悪知恵が回る。おそらくは、今の攻撃でも仕留めてはいないだろう。直撃の瞬間、転移魔術を使うのが見えたからな。踊らされていたんだよ、我々は」

「・・・無駄に施設を壊しただけか」

「それならいいのだが。ピートフロートの姿も見えぬ。ひょっとして、それすら幻覚か、あるいはあの悪霊の罠だったのかもな」


 ノーティスはグウェンドルフの肩に手を置き、慰める。その様子を遠目にドゥームは見ながら、ほくそ笑んだ。


「いやいや、無駄に壊しただけじゃないよ? ちゃーんと目的は果たしたさ。僕の目的をね」


 ドゥームの笑いとともに、グウェンドルフの左腕が突然吹き飛んだ。予想外の出来事に理解が追いつかぬグウェンドルフを、ノーティスが守る。

 かろうじて連撃を逸らすも、逸らしきれなかった一撃にノーティスの右耳が消えた。グウェンドルフが攻撃の方向に向けてブレスを撃ちまくると、融けていく外壁を踏みしめながら、中から光の剣をもった男が出現したのだ。

 その光景に、ドゥームが指を鳴らしながら喜んだ。


「はははっ。あれだけ施設が壊れりゃ、門番といえど専守防衛ってわけにはいかないよなぁ!? さぁ、真竜二体と遺跡下層の門番の戦いだ。派手にやりあっておくれ。

 その隙に僕は奥に進ませてもらうとするよ!」

「・・・悪い人」


 ドゥームは門番だった剣士と真竜二体の間で戦端が開かれたのを見て、奥に進んだ。デザイアがくすりと笑ってドゥームに続く。

 ドゥームは門番が守っていた先の扉に到着したが、そこで足が止まった。周囲があまりの熱で融け続けているのに対し、門がある区画の先は一切変形すらしていなかった。余程大事なものがあることは想像にやすかったが、その異様に二人は立ち尽くす。

 ドゥームは門の前にある鍵となる石板に悪霊を滑り込ませるようにして操作しようとした。デザイアがサーペントの能力を使って周囲を冷やしながら、その様子を見守る。


「熱いわ、ドゥーム。早く先に進みましょう?」

「・・・」

「ドゥーム?」

「・・・開けられなくはない。だけどかなり時間がかかる。一番早いのは、あの門番を倒すことだ。厳重さが桁違いすぎる。普通もうちょっと段階を踏むだろうに、一気に扉の暑さが100倍にでもなった気分だ」

「どうするの?」

「もう一捻り必要だ、この先に行くには。場合によっては、門番が真竜とやりあっているうちに撤退した方がいいかもしれない」

「そんな、ここまで来て――」


 デザイアが悔しがりかけて、その瞬間さらに大きな衝撃が彼らを襲った。そして中層と下層の境目に、ひびが入るのを彼らは見た。



続く

次回投稿は、8/13(土)22:00です。通常のペースに戻します。

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