戦争と平和、その569~廃棄遺跡下層⑩~
「下層の・・・さらに下だと?」
「まだ下があるというのか? なんだ、この施設は?」
二体が疑問を呈していると、その側面にドゥームが突然出現した。
《死風暴発》
無防備な横面に食らった一撃だが、真竜の対魔術防御は並みの生物とは一線を画す。アルネリアの城壁は一撃で壊せても、真竜にとっては外鱗を多少剥ぐ程度で致命傷を与えるには至らない。
「ぐぅうう!」
「小癪な!」
グウェンドルフが威力を抑えたブレスで汚れた風を薙ぎ払い、ブレスがドゥームをかすめる。ドゥームが苦悶の表情と共に逃げ回り、二体はドゥームを追った。
「今だ!」
「消滅しろ、悪霊!」
ブレスだけではなく、竜言語を用いた魔術まで行使して威力を上乗せするグウェンドルフ。
【日の出の如く照らさん、雲間の光の階段の如く射さん、宵闇の明星の如く輝かん、希望の如く闇を押し流せ】
《浄化する驟雨》
中層と下層を隔てていた液体から、ぽたぽたと雨が落ち始める。ドゥームがはっとした時には一極集中の豪雨となり、避ける場所すらなかった。
ドゥームは悪霊を傘のように集めたが、聖別された雨が槍のようにドゥームの防御を貫く。たまらずドゥームが地上に降りようとしたが、既に地面は滝の様な雨により、洪水の様相を呈していた。
「逃げられんぞ!」
「どこへ行く!」
ドゥームはたまらず開いた穴から地下の施設へと逃げた。そこは真竜が幻身せずとも入れるほどの広さを有していたが、一直線だった。一瞬入ることを躊躇う思考が彼らによぎるが、それもドゥームがふらつきながら逃げることで、強きで押しつぶす。
「グウェンドルフ、付加魔術を合わせろ! ブレスの性質を変えるぞ!」
「おお!」
ノーティスが魔術を展開し、それを飲み込む。喉を膨らませて放つと、ブレスが水に変化していた。さらにグウェンドルフが聖属性の魔法陣を起動し、ブレスが魔法陣を通過すると、ブレスは聖別された水となり、勢いを増してドゥームに襲い掛かった。
防御すら不可能で、直撃すれば消滅。そう考えた必殺の一撃は、ブレスがぐにゃりと曲がったことで予想を外された。ドゥームを守るように立ちはだかる、彼らにも見覚えがある姿。水を自在に操作し、本来は大海を我が物顔で泳いでいたはずの存在を彼らはそこに見た。
「ああっ・・・?」
「サーペント? なぜここに?」
「察しが悪いなぁ、真竜さんよぉ。本当にあんたら、人間に叡智を与えた存在か?」
ドゥームがサーペントに腰かけてへらへらと笑う。そのサーペントの頭部から上半身を出している女性をグウェンドルフは知っていた。
「馬鹿な、フェアトゥーセ?」
「白魔女だと? なぜここに――いや」
ノーティスが気付く前に、フェアトゥーセだったものの背中から、もう一人の女――デザイアが顔を出した。ドゥームが一層残酷に微笑んだ。
「ぶっ殺して、改造して、乗っ取ったに決まってんだろ! お前の義兄弟だったかよ? 残念でした、ばぁぁぁか!!」
「――きっ、きっ、貴様ぁあああああ!」
「や、やめろグウェンドルフ!」
ノーティスの制止も聞かず、グウェンドルフがキレた。今までは抑えていた攻撃を後先構わず全開とし、喉が灼けて破れんばかりの勢いでブレスを放った。その瞬間、デザイアは体を戻し、ドゥームと共に転移魔術でブレスの前から消えた。
そしてグウェンドルフの放たれたブレスがどこに命中したか。それは――
続く
次回投稿は、8/13(木)22:00です。