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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2030/2685

戦争と平和、その566~廃棄遺跡下層⑦~

「そうだな――まるで玩具を与えられた子どものように見えた。そして――とても自分勝手だ」

「自分勝手か――そうだ、そうだな」

「ええ、となると」


 グウェンドルフの意見に、ノーティスとアースガルが頷き合った。その様子にグウェンドルフが首を傾げた。


「どういうことだ?」

「あいつ、正規の管理者じゃない。むしろ侵入者が、強引に管理権限を奪ったんだ」

「でしょうね。それに彼は生きていた。管理者というのはシモーラ曰く、原則決められた物事しかできない、機械仕掛けの人形と変わらないそうですから」

「人形だって? そんな者が管理者をしているのか?」


 グウェンドルフの疑問はもっともだったが、アースガルはあっさりと認めた。


「人形と言っても、考え方の深さも能力も古代種を遥かに凌駕しますよ。それらを人形として使役した者がかつてはいたということでしょう」

「そんな者が――」

「いただろうな。さきほどの中層の一部を見ただけでも、あんなものを作れる者がいるとはとても信じられない。だがいたのだ、現実にな。きっと今の我々よりも遥かに優れた種族だろうさ。

 だが問題はそこじゃない。さっきの管理者――能力はあったが、明らかに危険な奴だ。あいつは野放しにはできんな」

「ええ、他のトゥテツやカレヴァンに相談した方がよさそうですね。あんなものが遺跡の一部を動かしているだけでも、恐ろしい現実だ」

「――頭が混乱してきた。何が起きているんだ、この大陸で」


 項垂れるグウェンドルフを見て、アースガルとノーティスが笑った。


「今起きているのではなく、もう既に起きていたことを認識できるようになったのですよ。喜ばしいことです、真竜の長よ」

「ようやく自覚がでたというところだな。お前にも自覚が欠けていたが、古竜の引き継ぎ方も悪かったのさ。もうちょっとお前が粗忽で阿呆なことを考慮して知恵を引き継げばいいものを、『空から大陸を眺めていればわかる』程度のことしか言わないものだから、こうなった。

 ダレンロキア様はちょっとおおらか過ぎたな」

「粗忽で阿呆か・・・ううむ、否定できぬ」


 そのグウェンドルフの言い方に、またしてもアースガルとノーティスが笑った。彼らがそうしていると、次の球体が横から近づいてきて合流し、彼らは次の球体へと滑るように移動した。

 そして横に移動しながら、球体は徐々に突然停止し、斜め下に方向を変えた。


「慣性が全く働いていないな。どうやっているんだ?」

「球体の重力制御が完璧なのでしょう。あるいは無重力にしているのかもしれませんね」

「無重力ではないだろう。重力を全方向で一定にしているのではないか?」

「そんな技術がありえるのですか?」

「正解はどうだかわからんし、調べるすべがないがもう少々のことでは驚かんよ」

「いや――私は驚くよ」


 グウェンドルフが指さした先では、真竜を一飲みにするほど巨大な生き物が空を泳いでいた。羽もなく、平べったいムカデのような体に、お情け程度の羽がついている。

 その生物の口ががばりと開くと、中からはこれまた巨大な魚が姿を現した。魚にはヒレの代わりに手足がついており、脚がばたばたと宙を駆けるように動いていたが、手はゆっくりと水面を泳ぐときのように、水をかき分けていた。

 そして今度はその魚の口が開くと、中から美しい女が飛び出してきた。女は人魚のように貝殻で体の大切な部分を隠していたが、耳の代わりにヒレがあり、髪は流体でできているように水に流れていた。

 その女の首がにゅうっと突然伸びるとグウェンドルフたちの球に接近し、驚く彼らを観察した後、微笑んで会釈して戻っていった。女は再び魚の口に収まり、魚は巨大生物の口に収まり、何事もなかったかのように泳ぎ去っていく。

 その巨大生物が通り過ぎる時に、背中の部分に腕を組んだ上半身だけの巨人がふんぞり返っていたのを、彼らは見た。


「――な? 驚くだろう?」

「――おう、俺が悪かった。確かに俺も驚いた」

「――なんと世界は不思議に満ちていることか」


 アースガルが祈る姿勢をしながら、彼らは宙に浮いていた液体の部分を抜けた。それが宙に浮く海のようなものだと気付いた時にもう一度彼らは驚いたが、すぐに下に見えた下層に様子に心奪われ、もう先ほどのことは頭から追い出されつつあった。

 そして彼らを乗せた球体が下層につくと、中層の管理者に渡された薄い石板が光って道を指し示した。球体は泡のように弾けるも、彼らは静かに地面に降り立つことができた。そして石板の誘導に従い歩き出す彼ら。


「どこに行くのか――」

「それより、誰がいるかだな」

「会話が通じる相手であることを祈りましょう。ここでも魔術が上手く使えない。精霊はここにもいないようですね」

「そうだな――って、待て、知った気配を感じるぞ?」


 ノーティスが一度足を止め、気配の元を探る。そしてしばらく後、彼の表情は驚きに変わった。


「ちょっと待てよ――これは――俺の従僕、ピートフロートの気配じゃないのか!?」


 ノーティスが思わず叫び、その声が下層の闇に溶け込み、消えた。



続く

次回投稿は、8/7(金)22:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドゥームは真龍2人から恨みまれることになりそうですね。 サーペントにピートフロート 魔女の件でアースガルにも嫌われるかも? ただドゥームだけは終盤まで生き残る、そんな予感がします。 [一…
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