戦争と平和、その564~廃棄遺跡中層㉔~
「お前は我々の敵か、味方か?」
「敵でも味方でもないよ。もちろんこれから何が起こるかでは変わってくるだろうけど、強いて言うならボクの研究の邪魔をする者は精霊であっても敵さ」
「なるほど。ではここにいるウッコを始末したいのだが、手を貸してはくれぬだろうか?」
その申し出を聞くと、中層の管理者は少しだけ興味を引かれたようにノーティスをじっと見つめた。そしてくすりと笑うと、すぅっと彼らの傍に滑るように近づいた。
「面白いねぇ、君の発想は。敵でも味方でもないなら、味方にしちゃえってか。その柔軟な思考はさすがもっとも知恵のある真竜というところかな?」
「単に役割に恵まれただけだ。戦闘力が古竜の中ではさして高くもなく、後方支援に徹したっ結果、様々な知恵がついた。恥ずべき結果ともいえる」
「なるほど、それが最前線で戦い続けたシュテルヴェーゼとの差か。その二体が番になるとは、実に興味深い。今度人間や、それぞれの種族の恋愛事情でも研究してみようかな」
「で、どうなのだ? 協力してくれるのか?」
「いいよ」
中層の管理者はあっさりと認めた。その返答の早さに、アースガルとグウェンドルフも肩透かしをくらった。
「いいのか? 研究対象なのだろう?」
「いやぁ、既に解き放たれるた以上、詳細なデータは取れないんだよね。それなら、戦闘データを取った方が参考になりそうと考えただけさ。
それに放っておいてもウッコは寿命は迎えるだろうけど、無駄に暴れられて中層を荒らされるのも腹立たしいんだ。キミたちみたいに、余計な注目を集めてしまうし。むしろさっさと倒して、キミたちもいなくなってくれた方が嬉しい。
だから、既に討手を放ってはいる。前管理者と、その配下達を。ウッコに触発されて起きた連中が何体かいるから、そちらの排除を優先させているけど、そろそろ目標に到着するかな?」
中層の管理者は光の石板を操作し、画面を次々と切り替えた。その中に、強大な赤い点を示す場所がある。
「わかるかい? この大きな赤い点がウッコだ。内臓魔力に反応して表示するように設定してある。全体図だと他にも色々と侵入者がいるようだけど、ウッコが一番大きいね・・・あー、ちょっとまずいかな?」
「ここはどこだ? 何がまずい?」
「製造プラント。ここで作られる武器や食料、兵器の製造工場さ。ここで暴れられると、中層の機能が落ちちゃうね。うーん、ボクも行くかぁ・・・? でもなぁ、顔見知りもいるからなぁ・・・」
中層の管理者がぶつぶつと悩みながら、さらに画面を操作した。すると、画面にウッコと戦う誰かの姿が映ったのだ。
「ははぁ。移動していないと思ったら、既に交戦中か。ウッコを一人で足止めするなんて、やるねぇ」
「誰だ、これは?」
「知らないよ。でも道化師みたいなふざけた格好の割には、本当に強いね。人間でこれは、相当な戦士なんじゃない? でもさすがに勝つほどじゃないだろうから、応援を向かわせよう」
中層の管理者が画面をさらに切り替え、言葉を発する。
「あー、あー、こちら管理者。至急プラントに侵入したウッコを排除されたし。現在起動している戦力を集結させたまえ、どーぞ?」
「・・・こちら管理官。先ほどの命令通りそちらには向かっていますが、妨害があります」
「へ? 誰がキミたちを妨害するってのさ? ここ中層でなら、ブラディマリアすら問題にしないでしょ、どーぞ?」
「それが――予想外の存在が一体。現在指揮官3体のうち、1体と中隊が落とされました。現在残る2体が撃滅に向かうところですが、それよりもウッコの撃滅を優先しますか?
現在の作戦成功率は97%から80%まで低下、我々の稼働時間は残り半刻程度ですが」
「指揮官級が落とされたって!? 敵は誰だ、おい!」
俄に苛立った中層の管理者が声を荒げた。それに対しても、冷静に答える管理官。
「敵は3体。いずれも能力値は低く魔術はほとんど使いませんが、人間種にしては高水準の能力。ただ1体、違う者が混じっていると推定されます」
「誰だ、いや、『何だ』、それは!?」
「敵の正体は不明――記録になし。下層の管理者か中央情報局に照会されたし。推定ではシン――2体目の指揮官級稼働停止を確認。ただいまより、戦闘状態に移行します。では通信を中断します」
「シン――なんだって!? おい、おい! ちくしょう、切りやがったぞポンコツが! 管理者の権限を奪った時に、能力に制限をかけたのが間違いだったか」
それきり相手は答えることなく、連絡は取れなくなった。中層の管理者は苛立ったように隣にあった柱を叩くと、ヒビがぴしりと入り、中にいた生物が驚くようにみじろいでいた。
「(俺たちが叩いても傷一つつかなかった柱を、こやつ)」
ノーティスが驚いたが、中層の管理者がぶつぶつと呟きながら、光の石板を高速で処理し始めた。その表情には怒りが隠せず、よからぬ行動をしているのではないかとノーティスは勘繰った。
続く
次回は8/3(月)22:00です。