戦争と平和、その563~廃棄遺跡中層㉓~
「今、そこの柱の奴が動いたぞ?」
「生きているのか?」
「そうだよ?」
突然上方から声がかかり、三体がそちらを振り向く。そこには杖を持ち、白いローブに身を包んだ紅顔の美青年が浮いていた。
おそらくは浮遊の魔術で浮いているのだろうが、光の石板を操作しながら、どうやら柱の中を観察しつつ何かを記録しているようだ。
ローブの青年は三体の方を見下ろすと、不思議そうな顔をした。
「キミたち、どうやってここに? ああ、グランドスパイダーを倒したのか。やるねぇ、あれでも中層の番人だったんだけど。キミたちのような種族じゃあ退けられない相手のはずなんだけどなぁ。裏技でも使った? ま、どうでもいいけど」
「お前は誰だ?」
「名乗る時は自分から。ま、聞かなくても知っているけどね。古竜ノーティス、真竜グウェンドルフ、導師アースガル、で合っているよね?」
青年はつらつらと述べたが、三体の存在にはさほど興味を示していないようだ。それよりも光る石板を高速で操作する方に意識が裂かれているようだった。
ノーティスはごくりと唾を飲みながら、相手のことを注意深く観察していた。青年の周囲に漂う魔力の残滓が、並々ならぬ量だったからだ。魔力を抑えているのだろうが、それでも溢れだすような魔力の量。
竜や導師ですらこうはならぬだけの魔力を、最低保持しているはずなのだ。ノーティスは慎重に言葉を選んだ。
「貴殿はこの中層の管理者か?」
「貴殿だなんて、かしこまらなくても結構だよ。確かにボクは中層の管理者だけど、そんなに偉い立場ってわけじゃないし。ま、それも仮の管理者ってところで、実行支配したと言った方が正しいかもね。中層の管理者は倒して乗っ取ったってのが正しいかな」
「倒して乗っ取っただと。シモーラよりも強力な管理者を?」
ノーティスが驚いた声を挙げたが、青年は構わず作業を続けていた。その手が止まることなくせわしなく動いており、青年は三体に構わず柱の間を移動していた。三体は青年を追いかけながら話を続ける。
「ここで何を?」
「見ての通り、この生物の管理さ。数千年もほったらかしになっていたから、死にかけの状態でね。今健康管理をしているところ。
この光の石板の意味がわかる人間がほとんどいなくてね。苦労しているんだよ。いつの時も人手と時間が足らないね」
「一つ聞きたい、ウッコとアッカはこの柱の中にいたのか?」
青年はその質問にもう一つの石板を操作し、画像を大きく出した。光の線がウッコとアッカの姿を中空に大きく描き、古代文字と共に説明が浮き上がる。
「どうやらそのようだね、能力値を表示した記録が残っていたよ。ボクがここに来る前の出来事さ」
「・・・いつここに来た?」
「えーと、一年くらい前かな? まだなり立ての管理人だから、そんなに偉いわけじゃないって言ったのさ。ま、身分なんてものにこだわるのは最初にそこにいた人たちで、組織を動かすのに必須じゃない。こだわるべきは機能性と役割なんだけど、まぁそれは置いといて。
何せ食料、武器、生体兵器、機械兵器、製造工場、色んなものが中層にはあるからねぇ。それを把握するのに必死で、ようやくこの生体兵器の把握が半分終わったかなってところなわけ。寝る間もなくやっているから、できればキミたちに時間を取られたくないんだよね。
人と話すのも久しぶりだからちょっと惹かれる気持ちもあるから、出血大サービスで色々話しちゃう! でも、作業の邪魔をしない範囲にしてほしいなぁ」
ぺらぺらと管理者が自分勝手に話すのを三体はじっとその内容を聞いていたが、アースガルが汗をつぅと流しながら質問をした。
「私からも質問が。あなたはここの把握が終わったら、どうするつもりなのだ?」
「それは下層の管理者との相談次第。ボクとしては地上に解き放ってみたいけど、こんなのを解き放つと、地上は一月もあれば平らになっちゃうだろうなぁ。結果の見えた実験は面白くない。まずは彼らをどうやって作ったのか、そこの研究からかな?
そういえば、さっきキミたちが気にしていたウッコとアッカ? 正確には管理番号c7234とe1457らしいけど。彼らですら能力値はここの生体兵器の中で50指にも入らないんだよねぇ。ここにいる生体兵器たちはとんでもない能力値なわけさ。興味は尽きないよ」
「な・・・ん、だと?」
その言葉に三体が固まった。かつて大陸を滅亡に追いやったウッコとアッカですら、その程度だという。ならばここの生体兵器を全て解き放てばどうなるというのか。
続いて、ノーティスが前に出た。
続く
次回投稿は、8/1(土)23:00です。