戦争と平和、その561~廃棄遺跡中層㉑~
「いや・・・やっぱり俺は残るぜ。事の顛末を見届けてぇ」
「お前がいても、何も変わらんかもしれん。それに、相手はお前を一捻りにする実力をもつ相手だ。次に出会ったらおしまいだぞ?」
「上等だ、その時は目印代わりに一太刀ならぬ、一爪くれてやる。終わってからエンデロードの姐さんのところに向かうさ」
「そうか・・・なら私たちはノーティスに合流してから向かうとしよう。ここに転移で呼び寄せたから、今頃わけもわからず戸惑っているだろう」
「旦那を? どこに呼んだんだ?」
「縦穴だ。あそこなら十分な場所が確保されているからな」
ユグドラシルはそれだけ言うと、シュテルヴェーゼを連れてジャバウォックと別れたのだった。
***
「まさか、貴方にこんな所で出会うとはな」
「本当に奇縁というやつだ。今までどこで何をしていたんだい?」
「それは俺が知りたい」
むすっとしてグウェンドルフとアースガルの質問に答えるのはノーティスだった。ノーティスはアルフィリースとベグラードで出会った後、大陸をほうぼう巡って情報収集をした。そして真竜たちを一堂に会そうとしたところまでは覚えているが、以後の記憶が乏しい。
確かマイアと合流して、ピレボス近くの尾根で合流予定だったはずだが――と考えると、頭痛がするのだ。
「ふむ・・・誰かに会ったような気もするのだがな。今までどうしていたものか」
「転移で突然出没するあたり、誰かに移動させられたのだろうけど。記憶がないということは、おそらくは封印されていたのだろう」
「ノーティスを封印!? そんなことをできる者がいるのか? そもそも何のために?」
アースガルはいきり立つグウェンドルフをなだめ、質問に答えた。
「導師が総出でやれば、できなくはない。もちろんそんな事実はないし、準備も必要だ。準備もなしでやるとなると――どのくらいの魔術の研鑽が必要なのか」
「封印、封印か――今はどのくらい時間が経ったのか。外の世界はどういう状況だ? オーランゼブルの計画は発動しているのか?」
「いや、まだだ。今は延期されていたアルネリア400周年記念祭の真っ最中、大陸平和会議十日目が終わり、天覧試合の初日が終了した段階だ。陽が昇れば、ベスト8が開催される」
「大陸平和会議――ではまだ計画の発動までに時間はあるが、もう阻止は不可能か。そうか、間に合わなかったか」
ノーティスは悔しそうに項垂れたが、アースガルはノーティスを慰め、グウェンドルフはいまいち理解できないといったようにその様子を窺った。
「なぁ、ノーティス。オーランゼブルの計画とは結局なんなのだ? 私もおおよそのことは掴んだが、いまいちその全貌は理解できていないのだ。私に魔術の知識が不足しているのはわかっているが、それにしても全貌が見えない。
ノーティスなら理解できているのだろう?」
「――ああ、無論だ。オーランゼブルの計画は理解している。だが封印される前にすぐ動いても計画が阻止できたかどうかは五分五分だったし、今となってはもう無理だ。それに計画が発動したからといって全てが終わってしまうものでもないが、その是非に関して誰も異論をはさむ余地がなかったというのが問題だ。
奴は一人で、あるいは一族全員で悩み、そして決断してしまった。もちろん、五賢者が全ていても、古き我々がいたとしても奴の計画に賛成する者も反対する者もいたと思うが。
「そうだね、導師たちはおおよそが賛成しただろう。イグナージは見守っただろうし、エンデロードは反対しただろうなぁ」
「アースガルは知っているのか?」
グウェンドルフの質問に、アースガルは頷いた。
「計画がここに至ればね。導師は全員気付いているだろうし、魔術士も力ある者は気付いただろう」
「教えてくれ、私だけ蚊帳の外にいるようだ」
「教えてもいいが、アルフィリースがいるところで教えるべきだろう。アルフィリースはここにいるし、彼女はこのままだと奴の計画の渦中にいることになる。それなら計画が防げずとも、何が起きるかは知っておくべきだ」
「「何? アルフィリースがここに!?」」
アースガルの言葉に驚いたのだ、グウェンドルフもノーティスも同時だった。アースガルは一瞬驚いたような顔をするが、ふっと笑っていた。
「さっきの縦穴――精霊がざわめいていたよ。直前にアルフィリースが通ったんだね。そしてオーランゼブルも」
「なんだと!」
「偶然とは恐ろしい。まぁ、ウッコがいるなら当然といえば当然か」
「ウッコだと!? 今はどうなっている?」
アースガルはアルフィリースの近況、自分との出会い、そしてウッコのことを告げた。ノーティスはより一層唸り、悩み、そして――
続く
次回投稿は、7/28(火)23:00です。