戦争と平和、その556~廃棄遺跡外周⑪~
テトラスティンが叫んだ。
「リシー、だめだ。相手は古代の兵器を使う人形どもだ。その武器相手に、物理的な封鎖は意味がない」
「ではどうしろと?」
「やむをえない、下層に向かう」
テトラスティンが再度、昇降機を起動させた。誰もが示し合わせるでもなく、テトラスティンの元に集まった。
彼らが昇降機に乗るのと、扉に線が入り、切り落とされるのは同時だった。彼らは人形兵が群がる間一髪で、下層に向かっていた。
「ここに押し入って来ねぇだろうな?」
「彼らは命令通りに動く人形だ。中層から下層は権限が違う。その命令を更新するのは、彼らといえども時間がかかる」
「追ってこないという保障はないわけか」
「そうだな」
シェバの指摘にテトラスティンは頷きながら、その場に座り込んでため息をついた。
「目論見が外れた」
「どこが」
「当初はあの受付から命令系統に入り込み、戦況を把握するつもりだった。ウッコと面と向かって戦わずとも、それと戦う面子を支援することはできると。
ついでに、この中層の探索を行うつもりだったが――中層の管理者がいるとは聞いていない」
「以前はいなかったのかい?」
「もちろんだ。中層は静かなもので、何一つ動いてやしなかった。生体兵器どもは生きていたし、兵器どもは命令さえあれば動いたろうがな。
中層の管理者が目覚めたか、それとも新たに就任したのか」
「就任――そんなことが?」
リシーの疑問に、テトラスティンが頭を後ろにぶつけながら答える。
「仮に下層の管理者が上位存在だとして――その者の命令があれば、あるいは」
「仮定まみれの話だね」
「そう思うが、現実に起きたことだ。だが、くそっ。ウッコのことすら戦っている者たちに伝えられなかった。あれについて一番詳しいのは私のはずなのに」
「詳しい? あんたが一番?」
シェバに疑問に、悔しそうに答えたテトラスティン。
「そうさ。以前あの受付で光の石板を調べていた時に、ウッコの能力値を見たんだ。製品管理帳と銘打たれた項目に、全ての生体兵器の能力一覧が書いてあった。ウッコの能力は、せいぜい魔人の倍程度。神話の時代に魔人と古竜の群れを相手に、どうこうできるほどの能力はないってね。
しかも今は復活の最中で、マナも使えないときた。戦略を立ててきちんと戦えば、勝機はある。それを伝えたかったんだが」
「中層にいる者たちに賭けるしかない、か。グウェンドルフもいるし、なんとかなるかね」
「どうかな・・・グウェンドルフは粗忽者だからな。五賢者の頭脳はオーランゼブルとイェラシャだったからなぁ。オーランゼブルもここにいるが、奴らが一時的にでも協力するかな?」
「え? 黒の魔術士の首魁がここにいるというの?」
エネーマの指摘に、テトラスティンは余計なことを話したと思ったが、すぐに話題を変えた。
「どもかく! 我々は下層に向かう。私も下層はそれほど探索したことがないし、何があるかわからない。先ほどの仮定が仮に真実だとして、下層の管理者がいれば詰みだな」
「なら、さっさと逃げるべきでは?」
「忘れたのか、上にはアルネリアがいるんだぞ? 前門の竜、後門の魔人だ。ならば前進して竜穴に入り、竜児を得るべきではないか?」
「なんだその諺は?」
ヴァルガンダに指摘され、テトラスティンは目をぱちくりとさせた。
「そうか、お前達には古い諺だったか。今では虎と狼だったか?」
「竜と吸血鬼じゃね?」
「一つ目巨人では?」
「そんなの別に怖くねーだろ」
「鬼では?」
「それは東の大陸な」
「やれやれ、豪快な者が多すぎるようだ」
「そうかもね」
やいやいと言い合う女子を見ながら、テトラスティンがふっと笑い、エネーマが同意した。ようやく下層が見えてくるころ、下層の管理者もいるとするなら、自分はその相手をちらりとでも目の当たりにしたいものだとテトラスティンは考えていたのだった。
続く
次回投稿は、7/18(土)24:00です。