戦争と平和、その555~廃棄遺跡外周⑩~
「・・・なるほど。おおよそ理解できるが、よくわからないものがあるな」
「この点はなんだい?」
「感知できる内在魔力で、生命反応を示している。内在魔力が大きければ、点は大きくなる。こちらが動体反応。動いているものだけを見たい場合には画面を切り替える。動体反応では相手のサイズがわかる」
テトラスティンが光の石板を操作しながら答える。それぞれが光の石板を見ていたが、のぞき込まれるのが面倒だったのか、テトラスティンが壁一面に全体図を出した。そこには生命反応と動体反応が双方映し出されていた。
テトラスティンが解説する。
「今いる受付がここだ、ここに我々の魔力反応がある。この中で内在魔力が一番大きいのが私だ。そしてそれと比較して大きい者が何名もいるな。
動体反応もかなりの数が動いている。そこかしこで戦いが起きているようだ」
「・・・あんたと比較して、大きい奴が多すぎないか? なんなんだ?」
「オーランゼブル、ライフレス、それにシュテルヴェーゼなどなど。魔術協会の会長が一番とは限らんだろう。そして中央、栽培フロアにいるのがウッコだろうな」
「でかっ」
ウッコの赤い点は、テトラスティンのそれと比較して10倍以上あった。テトラスティンは笑う。
「だいだい点の大きさが倍あれば、内臓魔力は4倍になる。大きさが3倍で、内臓魔力が8倍。それが10倍ともなれば・・・」
「1024倍か」
「大雑把そんなものだろう。魔力の大きさが強さや勝負の結果になるとは限らんが、私の魔力などは吹けば飛ぶようなものだろうな。存在強度が違い過ぎる」
テトラスティンの説明に青くなるシェバの弟子たちだが、シェバはさらに他のことにも気づいていた。
「ウッコに近しい・・・あるいはウッコ前後の魔力反応がありやしないかい?」
「そうだな。ウッコはもちろん化け物だが、この中層においては必ずしも最強ではない。よくある階層主への通路を妨害する、中ボス程度の扱いだろう」
「ハァ? 神話の大災害を起こした化け物が、中ボスぅ? どんな遺跡だよ、ここは!?」
「そういう遺跡なのだから仕方がない。私はそもそも、ウッコがかつての大災害を起こしたのではないと思っているけどね」
「どういうこった?」
「遺跡を調べていて思ったことさ。あれほどの力をもつ魔獣がこれほど沢山いるとしたら――いや、沢山保管しているとしたら、それだけで危険制御ができていないことになる。
ま、心配しなくても動体センサーには反応していないだろう? どれもこれも休眠状態さ。動くことはないだろうが――」
その瞬間、一体の巨大な赤い点が動体センサーに反応したのだ。赤い点はわずかにだが部屋の中を移動し、元の位置に戻る。赤い点が動いたことで、部屋の灯りが一瞬赤一色に染まった。それはまるで一瞬バケツ一杯の血を浴びせかけられたかのように、その場にいた者たちを竦みあがらせていた。
「なぁ・・・今の点さ。明らかにウッコの倍はあったよな?」
「・・・ああ、見間違いじゃない。倍はあった」
「なんだよ、あれ? 知ってるのか?」
「いや。昔からここには定期的に潜っているが、あんなものを見たことはない。少なくとも、ここ60年間に10回以上訪れているが、見たことは一度もない」
「最後に来たのは?」
「3年前だ」
テトラスティンの言葉とともに、石板の光が不意に揺れ始めた。そして動体反応が一度ほとんど消えると、一点滅するごとに見る間に増えて、受付めがけて動き出したのだ。
「――おいおい、おい! こっちに来てるぞ!?」
「――馬鹿な、ここに気付かれた? ここには意志のあるシステムなどないはずなのに!」
「そうは言っても!」
「逃げましょう、ここにいてはまずい」
黙っていたリシーが突然動き始め、受付から外の部屋に続く扉を補強して閉じ始めた。動体センサーは扉の外に続く部屋に迫ってきている。
続く
7/17(木)24:00です。