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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2017/2685

戦争と平和、その553~廃棄遺跡外周⑧~

「何者だ!」

「婆ァを返しやがれ!」

「よ、よせ・・・敵ではない」


 女騎士の腕の中にいたシェバがようやく手を挙げると、息巻く弟子たちを引き留めた。そして訝しんでいたエネーマが、魔術士の顔に見覚えがあることに気付いた。


「テトラスティン? 前魔術協会長、テトラスティンね?」

「おや、面識があったかな?」

「大司教ミナールの補佐として、何度かあなたとの面会に同行していましたわ」

「・・・ははぁ、あの時のシスターか。腕が立つとは思っていたが、思わぬところで出会うものだ。その様子だと傭兵になったな? 名前は確か――」

「その件は触れないでいただけると助かりますわ。それより何の用でして? 背後の女性は、秘書の方だと思っていましたが、そのいでたちは?」


 エネーマが笑顔で威圧感を放ったので、テトラスティンは無用な詮索はすまいと話題を元に戻した。


「リシーの恰好は僕の趣味だから、そちらも深く追及しないでほしいね。それより話を耳に挟んだのだが、アルネリアの危険性に気付いたのなら、避難先を用意することはできる。どうする?」

「渡りに船とはこのことですが、信用できまして? 魔術協会を凄惨な手口で掌握し、絶対権力を長期にわたって振るった魔術士殿。私の記憶が確かなら、ミリアザールに懸想していたと記憶していますが?」

「それは――」

「保証はワシがしよう」


 シェバがリシーの腕からゆっくりと離れ、ようやく立ち上がった。弟子たちが慌ててその両脇を支え、シェバはふぅと息を吐いた。


「全く、歳は取りたくないものだね。咄嗟の受け身が取れなかった。久しぶりだね、テトラスティン」

「ああ、久しぶりだな。確かに年を取ったものだ、シェバ。魔術協会同期で一番の美人が老いさらばえるのを見るのは、やはり気分がよいものではない」

「ほっときな! こっちこそ、同期で一番のショタ小僧がいつまでもそのままってのも気持ち悪いのさ! しかも同期で一番極悪非道な手段を用いて出世しやがって。あんたのせいで人生すら諦めた連中が何人いたかね!」

「雑魚など知ったことではない。どのみち大した成果も残せない、夢見がちな連中だった

本当に力をもっていた魔術士は、貴様を含めて数名だけだ」


 冷ややかな視線で語るテトラスティンに、エネーマですら肝が冷えた。おそらく、この前魔術協会会長は、他人のことなどなんとも思っていない。利用価値があるかそうでないか、あるいは敵かそうでないか、それだけなのだろう。

 人間としての憐憫や情などとうに捨てた――そう告げんばかりの言葉だった。だが、だからこそエネーマは信用できると思った。それはシェバも同じだったようだ。


「ちっ、その言いようは変わらないね。だからこそ信用できる――自分に利になる契約の話なら、この男は必ず履行する。それだけはワシが保証するよ」

「同感ですね。なぜここにいるのか、聞きたいことは多々ありますが、まずはここを離れるのが先決でしょう。ここからの方策があれば乗りましょう」

「反対する者がいれば離れてくれて結構だ。ただ、今のアルネリアに見つかると命の保障はできない。どうする?」

「どうするもこうするも、選択肢などあるわけが――おや、ヴォドゥンは?」


 白藤が言いかけてヴォドゥンがいないことに気付いた。だがエネーマは驚くことなく、冷静だった。


「とっくにいないわ。ヴォドゥンの本質は研究者よ。気になることがあれば、仲間のことなんて無視して動く。そもそも私たちのことなんて仲間ともなんとも思っていないはずだし、ゼムスの仲間になるときに宣言したことだわ。もう下に向かったわよ」

「わが身の危険すら顧みることはないじゃろうて。じゃが、それでも生き残ろるのがあやつじゃ。実力だけは超がつくほど一級じゃからの」

「まぁいいさ。下で生き残る実力があるのなら、自由にすればいい。私もここより下層で気になることがある。脱出するのは私の調査が終わった後になるが、それでもよければついてこい」

「ここより下に行く・・・? 魔術が思うように使えないのでは?」


 エネーマの言葉に、ふんとテトラスティンは吐き捨てるように告げた。


「魔術が使えないのではなく、小流のみしか使えないということだ。内臓魔力で戦うのならこの大陸で最も強いのは彼岸の一族かライフレス、次にオーランゼブルだろうが、私もその間くらいではやれる。だからこそ、彼岸の一族は大陸の東側に侵略してこなかったのだからな。

 そうでなければ、ラ・ミリシャーのごとき野心家がいれば大陸の東側などとうに占拠されていただろうよ。奴が恐れていたのは、私とリシーの二人だ」

「・・・大した自信だこと」

「事実だ。シェバにでも確認すればよかろう」


 テトラスティンの尊大な物言いだったが、エネーマがちらりとシェバを見ると、かの賢者も小さく頷いていた。どうやらテトラスティンの恐ろしさなるものを、よく理解しているらしい。

 テトラスティンが先導する形で、彼らは歩き始めた。その行き先は、ドゥームが使っていた場所と同じだった。



続く

次回投稿は、7/12(日)24:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミリアザールに気づかれずにアルネリアを裏から、、 意外に梔子が黒幕だと予想します! ミリアザールは今何をしているかも気になります。楓が驚いていた記憶があるのですが 先日、pixivで偶…
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