戦争と平和、その549~廃棄遺跡外周④~
「この威力! 何者だ!?」
「真竜、確認をする暇はない! 反撃しなさい!」
「なんだと?」
エネーマの叫びにグウェンドルフが異論をはさむが、エネーマは必死の形相で訴えた。
「力は貴方が上でも、戦いの勘では私の方が実戦慣れしている! 話は通じない、そして次が来る! やらなきゃ、やられる!」
「だが!」
「グウェン、やるんだ! ここならまだブレスの制御ができる、全力で撃て!」
まだ躊躇するグウェンドルフが奈落を見ると、再度赤い光が灯るところだった。
「ぐっ! どうなっても知らんぞ!」
グウェンドルフが全開でブレスを放つ。普段は周到な準備の上、制御して放つ一撃を躊躇なく放った。相手の赤い閃光とグウェンドルフのブレスが交錯し、互いに干渉して軌道が捻じ曲がる。
赤い閃光は少し外れて横道の方へずれ、グウェンドルフのブレスは奈落へと吸い込まれたが、一瞬おいて凄まじい衝撃波が発生した。
「ぬぅうううう! こんな狭い場所で、なんて馬鹿なことを!」
「きゃああああ!」
「シェバ様! 飛ばされます!」
「大丈夫か!」
衝撃波にシェバの絨毯が煽られ吹き飛び、グウェンドルフが彼らを気遣う。アースガルはその場に必死に踏みとどまり、グウェンドルフに向けて叫んだ。
「やるんだグウェン! まだ相手は死んでないぞ、破壊し尽くせ!」
「何ぃ!?」
グウェンドルフが下を見ると、赤い光がさらにいくつも灯った。しかも、先ほどよりも距離が近い。
衝撃波で巻き起こった土煙をグウェンドルフが羽ばたきで吹き飛ばすと、相手の姿が明確になった。そこには、縦穴を塞ぐほどの巨体を誇る蜘蛛の様な相手が、縦穴を長い脚で登ってきながら、赤い三つの眼をグウェンドルフに向けていた。
「なんだ、こいつは!?」
「なるほど、底だと思っていたのは遺跡の番人か! グウェン、そいつがこの遺跡の敵だ! 徹底的に壊せ! 周囲はどうなっても構わない!」
「だが、しかし!」
「議論の余地はない!」
赤い三つの眼が輝くと、その中央に大きく赤い球体が形成された。今度はやや下からグウェンドルフに向けて、眼が光る。赤い光は先ほどよりも明らかに大きかった。
この角度なら、遺跡の上層部に直撃する。遺跡を吹き飛ばすほどの威力があるかどうかはさておき、衝撃波だけでも中にいる人間にとっては致命的になる可能性があった。
「うおおおお!」
グウェンドルフは本能が導くまま、魔術の制御を優先に、最小限のブレスを番人めがけて放った。先ほどの大容量の熱線ではなく、小規模のブレス。それを正確に赤い球体に命中させたのだ。
それは一瞬の出来事。赤い球体は誘爆し、蜘蛛の頭部ごと吹き飛ばした。相手の攻撃がないことを確認すると、グウェンドルフが盛大にため息をついた。
「ふぅー。止まったか」
「そこで命中精度を優先した一撃を放つとはね。成長したようだね、暴れん坊のグウェン。唱えかけていた私の魔術は無駄になりそうだ」
「茶化すな、咄嗟の一撃だっただけだ。人間と手合せをした経験がなければ、こうはならなかった。上手くいったのはたまたまだ」
「それはアルフィリースの師のことを言っているのかい?」
「想像に任せる」
グウェンドルフが安堵から笑おうとした瞬間、アースガルは詠唱途中だった魔術を解除しようとして、その手を止めた。
「! まだだ、グウェン!」
「なんだと!?」
頭部の吹き飛んだ蜘蛛だったが、体に無数の赤い眼が浮き出た。そして先ほどと同様に、三つ眼の中心にそれぞれ赤い球体を形成し始めたが、今度はその数が違う。10、いや20以上の赤い球体が、2人めがけて放たれようとしていた。
「くそぉ!」
【――水面はそよぎ、波立ち、揺れることで光を導け】
「グウェン、ブレスをもう一度撃て!」
アースガルが自分の魔術に干渉して性質を変化させた。グウェンドルフはブレスで敵を薙ぎ払おうとするのを一瞬でやめ、アースガルのやらんとすることの意味を理解した。
続く
次回投稿は、7/4(土)24:00です。




