戦争と平和、その546~廃棄遺跡外周①~
グウェンドルフは語る。
「それにしても、お主があの土地を動くとはな。死を覚悟のことか」
「その通りさ。それこそが私の寿命だと考えているけどね。長く生きた、終わる時を選択できる私は幸せだ」
「ならば多くを言うまいが、まさかアルフィリースに関わることだとはな」
アースガルは目的も事情も話していた。アースガルはアルフィリースの小手を見てグウェンドルフとの関係を察していたが、改めて聞くと運命とは数奇なものだと思うのだ。
グウェンドルフは旅の中でアルフィリースがアースガルに師事したと聞き、さすがに驚きを隠せなかった。
「むしろ私は、君がアルフィリースをもっと手厚く守護していると思っていたのだけどね?」
「言うな。真竜の長である私が特定の個人に肩入れするなど、本来あってはならないことだ」
「そんな倫理観なぞ捨ててしまえばいいのだよ。誰が得する訳でもなく、君だって納得していないだろうに。鱗を分け与えて小手を作らせるほどだ。そうするくらいには気に入っているのだろう」
「・・・それはだな」
「それに、彼女は御子として選ばれている。気づいていないわけではないのだろう。真竜であるなら、彼女を保護し、むしろ仕えてもよいくらいだ。そうしなかったのには、理由があるのか?」
「お主こそ気付いているのだろう? アルフィリースの中にいたのは、御子だけではない。訳の分からぬもう一体がいたのだ。それこそアルドリュースが危険視し、封じ込めた存在だった。そのような者に、私が味方するわけにはいかぬ」
グウェンドルフが強く言い切った時、アルネリアが見える位置に到達していた。夜も更けているが、大陸平和会議が開催されているせいで、周辺部には明かりが十分に灯り、都市の輪郭を浮かび上がらせている。
グウェンドルフは目立たぬように飛びながら、降りる場所を探した。アースガルは下の様子を見ながら、グウェンドルフに諭した。
「君の時はどうだったか知らないが、アルフィリースはその得体のしれない何かとも上手くやっているようだったよ。おそらくは、オーランゼブルの配下か、あるいは協力者だったのだろうけど」
「・・・驚くところなのだろうが、なぜか納得してしまうな。あの子は辺境の魔物とすら心を通わせる時があった。もちろん人間に害意しか抱かぬ魔獣もいたが、時間さえあれば彼女が口説き落とせぬ魔物も魔獣もいなかった。私もほだされたし、最初は魔獣使いの素質を持つのかと思っていたが」
「違うね、彼女の真の能力はもっと恐ろしいものだ。彼女が意図してそれらを振るうようになったとき、世界は形を変えてしまう。アルフィリースは薄々そのことを感じつつも、意識していないようにさえ見えた。
彼女に今は邪念がないが、彼女がこれから困難に突き当たるに従い、人生に絶望しあの力を意図的に使うようになったら――」
「その時は私が彼女の前に立つことになる。それがアルドリュースの遺言でもあり、私と彼が話し合った結果だったから」
「まさかそのために小手を授けたのか? あれは君の守護じゃなく、位置を報せる発信機のようなものか」
「もちろん旅の無事を願った。アルフィリースの前に敵意を持って立つなど、考えたくもない」
「そうだね。オーランゼブルもまさかそこまで考えていたわけではないだろうが――」
アースガルとグウェンドルフが同時にぴくりと反応する。その視線が同時に同じ方向を向いた。
「あそこか」
「ああ、あそこは確か遺跡があったところだね。浄化の遺跡だったか? シモーラが守護者だった場所だ」
「そこからウッコの気配が漂ったとは、なんとも皮肉なことだ。あの大魔獣と再度まみえるなど、御免被りたいものだ」
「ウッコに応じて、戦姫ソールカも目覚めている。わざわざ大規模のソナーをうって、自分の覚醒を大陸に知らせたからね。もうあそこにいることだろう。戦える者は集まれと、そう告げているのさ」
「何体集合できるかな」
「エンデロードは来てくれるかもしれないね」
「暇を持て余して太っていたぞ。かつてのようには動けまい」
「それ、本人の前で言っちゃあだめだよ?」
彼らは軽口を叩きながら、遺跡の上空に到着した。もちろん魔術で気配を消しており、彼らは遺跡の周囲に展開するアルネリアの部隊に気付く。
「ふむ、別にみられても構わぬが、少々面倒だな。ミランダかミリアザールがいれば話は早いのだが、そこまでわからぬ」
「じゃあ、隠し通路を使おう」
「隠し通路?」
「縦穴があるんだよ、この遺跡。シモーラに聞いたことがあるからね」
「私は初耳だぞ」
「君、その頃は人の話なんてろくにきかかなかったでしょ? まだ放浪の身だったころ教えてもらったんだ。指示するところに降りてくれ。そこにこっそりと抜け道を作ってある」
「悪い奴だな」
「お互い問題児だったから、我々は気が合ったのだろう?」
にやりと笑ったアースガルにグウェンドルフは溜め息をつき、彼の案内に従った。そして地上につくと、彼らの背後からひっそりと忍び寄る気配に気付いた。
続く
次回投稿は、6/29(月)7:00です。