表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2006/2685

戦争と平和、その542~廃棄遺跡中層⑯~

 そしてトゥテツはもぎとったカレヴァンの頭部を見つめると、思いつめた表情でジャバウォックに言い放った。


「――由々しき事態よなぁ」

「たりめーだ! ロックルーフの奴が死んだかもしれねぇ! お前ら、戦闘能力はないにも等しいとか言いやがったくせに、どうなってやがる!」

「我々に戦闘能力がないのは事実じゃ、本体に比べればな。それでも平均的な人間や獣人よりは随分マシ、くらいではあるがの。じゃがお主らを押さえるほどの力はない」

「ならさっきの障壁はなんだ!?」

「それも合わせて、今どうなっているかと言われれば、答えは一つよ。乗っ取られた」


 トゥテツの胸倉をつかみかけたジャバウォックの手が止まる。そして下を向いたままのトゥテツが顔を挙げた時には、その目の焦点が合っていなかった。


「多数を同時に乗っ取ることはできずとも・・・そうか、一つずつなら可能か。こんなことができるとなれば・・・敵の正体は・・・」

「おい、ジジイ!?」

「すぐにこの遺跡から出ろ・・・罠じゃ・・・これは、お前たちを始末するために用意された・・・」


 そこまで話すと、トゥテツは自らの頭を吹き飛ばして自決した。わけがわからず狼狽えるジャバウォックの前に、突然転移の魔法陣が浮かび上がり、そこからユグドラシルが出て来る。

 ユグドラシルはジャバウォックの顔を見、地面に転がるカレヴァンとトゥテツの残骸を確認すると、一瞬で表情を引き締め動き出した。


「そうか、やはりそういうことだったか。オーランゼブルは泳がされているだけで、私もまんまと釣られたか」

「おい、どういうことだか説明しろ! 一体なんだ、誰が何をしている!?」

「ノーティスは聡すぎたが、ある意味では奴も騙されていたのか。そうなるとあやつを封印したのは失敗だな。私までもが踊らされていたとなると、相手は――」

「おい、説明しろと言ったぞ!?」


 いきり立つジャバウォックがユグドラシルの胸倉をつかみあげ、睨み据える。だがユグドラシルは宙に浮かされながらも、その手を振りほどくことはせず、冷静に返した。


「そうしたいのは山々だが、時間がない。今、真実に一番近いのはお前だ。手伝う気はあるか?」

「理解はできねぇが、当然だ! 俺の前に立ち塞がる奴は全部ぶっ潰す!」

「そうではない、この敵は立ち塞がらぬのだ。後ろからそっと足を掴み、気付いた時には沼の底だ。これはそんな相手だ。お前が一番苦手とする種類の敵かもな」

「・・・ならどうすりゃいい?」


 ジャバウォックのその言葉に、ユグドラシルが魔法陣を組みながら小さく笑った。大流マナが使えぬはずの空間で、ユグドラシルが展開した魔法陣の大きさは尋常ではない。何もない空間に多数浮かび上がり、周囲を照らす。そこで初めて、ジャバウォックはユグドラシルの尋常ではない魔力量に気付いた。今まで感じたどんな生物よりも――シュテルヴェーゼよりも、イグナージよりも――ユグドラシルの内蔵する魔力の量が大きいことに気付いたのだ。

 例えれば、それは動く大海のような。ジャバウォックは毛穴が逆立つのを止められなかったが、そんなジャバウォックを従えながら二人は最初に着地した五叉路に戻った。ユグドラシルが天井を照らし、足場を形成して元の上層まで上がれるように手配した。その意味を理解するジャバウォック。

 

「ロックを最初に襲ったのはこのためか。俺たちをここに閉じ込めるため――」

「阿呆だが切り替えも頭の回転も早い、好感を抱くな」

「余計なお世話だ!」

「ここは私がやる、その間にシュテルヴェーゼの粗忽者を連れて来い。シュテルヴェーゼとお前を生かし、ついでに海の底に沈めておいたノーティスも復活させておく。シュテルヴェーゼに伝えておけ、ウッコはお前たちで何とかしろと。そして、いい加減夫婦仲を直せとな」

「お、おう?」

「もう一つ、アルフィリースへの伝言も頼もうか。これが終わったら私は規則違反ペナルティで一年以上活動不能になる。その間に動く奴がお前の本当の敵だ。それがどんな相手であれ、常に一番残酷な現実を思い描けと伝えておけ。いいか、くれぐれも敵を見誤るなよ、と。可能ならカレヴァンとトゥテツの本体を訪ねろ。必ず役に立つはずだと」


 そこまでユグドラシルが語った時、ロックルーフが去った闇の中から多数の何かが歩いてくる音が聞こえた。闇の中に光が一つ、二つと浮かびあがり、それらが赤い眼をした敵だとジャバウォックが認識した時には、彼はその場を駆けだしていた。

 ユグドラシルは、闇に光る赤い眼をした人形兵に向かいながら呟いた。


「さて、私を引き摺り出すところまで予測済みか? どちらを選択してもまずい未来になることは間違いないだろうが、まだこの方が目がある。それもまた、アルフィリース次第かもしれないがな」


 ユグドラシルは少し腹立たしそうに、そしてどこか楽しそうに敵の群れに向かって踏み出していた。



続く

次回投稿は、6/21(日)7:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ