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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
2005/2685

戦争と平和、その541~廃棄遺跡中層⑮~

「・・・はっ! 次は、シュテルヴェーゼ様か!」


 ジャバウォックが我に返ると、身を翻して全力で駆けた。まだそれほど時間も経っておらず、これなら30も数えることもなく追いつけるはずだと考える。だがそのジャバウォックの目論見は外れる。来たはずの道に見えない壁があり、突然はじき返されたのだ。

 ジャバウォックはその壁を全力で蹴り飛ばしたが、びくともしない。魔術ではない何かの力が働いていることは明白だったが、ジャバウォックにして初めて見る障壁だった。見えない壁を、ジャバウォックは何度も叩く。


「ちきしょうが! ここを通しやがれ!」

「やれやれ、品性の欠片もないわね。これだから獣は」


 見えない壁の向こうに現れたのはカレヴァン。ふわりと浮きながら、明らかにジャバウォックを見下し、その様子を観察していた。


「王種でもなく、ただのオオカミの亜種ごときが一番早く気付くとは。まったくもって度し難い。わざわざ分散させて一体ずつ仕留めるつもりだったのに、計画が狂ったではないか」

「テメェ、何者だ! 何を考えてやがる!」

「聞かれて答える馬鹿がいると思うのかしら? お前は後よ、シュテルヴェーゼが片付くまで、そこで待っていなさいな」


 無表情に答えたカレヴァンに、ジャバウォックがふー、とため息をついた。


「・・・なるほど。テメェ、カレヴァンじゃねぇな?」

「あら? どうしてそう思うのかしら? そんなに付き合いは長くないはずだけど」

「勘だ。だがあいつらは遺跡の管理者の分体だと言ったぜ? 詳しくはねぇが、遺跡の管理者がこうして出歩くだけでもかなりの規則違反なんだろ? シュテルヴェーゼ様が勝てねぇくらい強力な力を持つやつが、まるで人間とさほど変わらねぇくらいに弱体化するほどに制限を受けてんだ。そもそも俺たちに干渉すること自体、規則違反だろ? この遺跡の調査程度が限界――そうじゃなかったのかよ?

 なら、この力はなんだ? お前がやってるんじゃないよなぁ? この遺跡の管理者――いや、別の奴の力か?」


 その言葉にカレヴァンが反応することはなかったが、何も答えないことをジャバウォックは肯定と受け取った。必ずしも正解ではないが、外れてもいない――そう考えたジャバウォックの行動は早かった。


「俺とシュテルヴェーゼ様をまとめてやればいいのによ、そうしないあたりが貴様――貴様らの限界なんだろうな? なら、強引にでも押し通るぜ!」

「それは無理よ。この障壁は物理法則では破れないわ」

「るせぇ! そんなのは俺の知ったことじゃねぇんだよ!」


 ジャバウォックはミリアザールに合わせて人間の姿に幻身することにしたが、それまでは幻身をほとんど使用したことはない。つまり、幻身にそれほど慣れていないのだ。アルネリアで生活するようになってから、ようやくその扱いに慣れ始めたところである。そして統一武術大会を見るうち、その有効な使い方についていくつかの着想を得ていた。


「こんな感じかよ!」


 障壁のある部分を想定し、その壁を打ち抜く要領でその先にある対象物を攻撃する。遠当てを誰かにならったわけではないが、今回の統一武術大会で一番ジャバウォックが感銘を受けた人間の技術である。

 技は粗削り、威力の伝導効率はベルゲイなどが使う遠当ての十分の一にも満たない。だがジャバウォックが放てばその一撃も必殺となる。そして伝導効率が悪いがゆえに、衝撃が拡散して予測できなかった。カレヴァンの姿をした何者かは、ジャバウォックの一撃をまともにくらうこととなった。

 半身を失いながら、カレヴァンが吹き飛ぶ。


「な・・・あっ・・・」

「くたばりやがれ、偽物がよ!」


 だがカレヴァンに成り代わった者もただでは転ばない。まだ障壁を維持しながら、逃走するべく後退を始めた。


「どこに行きやがる! 待て!」

「待てと言われて待つ者が――」

「おらんわなぁ」


 カレヴァンが唐突な声に振り向くと、そこにはトゥテツが立っていた。そして振り返ったカレヴァンが反応する前に、その頭部をねじ切って機能停止をさせていた。



続く

次回投稿は、6/19(金)8:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コロナで暇になったので一気に読みました。 面白かったです。 [一言] 鍋の妖精が真なる力に覚醒して迫り来る料理を蹂躙していく話はそろそろですか?
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