戦争と平和、その537~廃棄遺跡中層⑪~
明日、書籍版「呪印の女剣士」第一巻の発売です。そちらもよろしくお願いいたします!
全員が即座に戦闘態勢に入るが、
「私がやるわ。あなたたちじゃ無理よ」
すっとソールカが前に出た。そして右拳が輝いたかと思うと、その拳を正拳で突き出した。
「光舞の一形、光散弾」
一つの動作で何十もの光の拳が飛んで行く。拳は飛来する鳥の群れを容赦なく打ち落とし、地面に這いつくばらせた。ソールカが二度、三度と拳を打ち出すことで、今度は正面から飛来する鳥が動きを変える。彼らは左右の道に展開し、背後から出現してソールカを挟み撃ちにしようとした。
それを見てソールカが楽しそうに笑った。
「ははっ、浅知恵ぇ! 光舞の三形、光砲!」
ソールカの前蹴り一発で、背後から迫る鳥たちは薙ぎ払われていた。光の塊がはるか背後へと飛んでいったことで、今いる場所がどれほど広大なのかを示していた。光砲はいつまでも着弾せず、そのまま彼方の闇へと消えたのだ。
後に残ったのは鳥たちの残骸だけである。だがそれらをつまみ上げて、ベッツが興味深そうに見ていた。
「なんだこりゃあ、金属か?」
「絡繰り仕掛けっすかね?」
「使い魔や、金属生命体にしちゃあ核が見当たらねぇ。しかし、こんな小さな仕掛け人形がいるものか?」
「仕掛け人形よ、とっても高度なね。遺跡とはそんなものだわ」
ソールカが長い髪をふぁさりとたなびかせて、歩き始めた。
「急ぐわよ。襲撃があったということは、この位置がばれている。その鳥、おそらくは最下級の迎撃機構だわ。ここにいる大きな金属人形級の敵が来たらとてもまずい。死人を出したくなければ、早くなさい?」
「ソールカ、ここの全員で移動できますか?」
「どこに行くかにもよるけど、着地でまた何人か酔うわよ? それに地形が把握できない状態での高速移動は危険だわ。もどかしくても、歩く方が確実だと思う」
「ふむ、しかしどこに行くべきか・・・」
「正面です」
リサが正面を指さし、ミコがそちらを見た。
「どうして?」
「そこから次の敵が来ます。敵は本来避けるべきですが、逆に言えばそちらに司令塔があるということ。そちらの金髪グラマラスに自信がなければ、逃げの一手でしょうが」
「言うわね。どんな敵?」
「四足歩行の犬か狼のような連中ですね。やれますか?」
「私も舐められたものだわ。それしきの敵、一掃してみせるわ。丁度寝覚めの実戦相手にはもってこいでしょう」
ソールカが腕を回しながら向かったので、リサが親指を立てていた。それを見てミコは、はぁとため息をついた。
「プラテカがここにいたらなんと言うか・・・単純なのは五千年経っても変わっていないのね、ソールカ」
「頼もしいではないですか、ちゃんと使い倒してあげましょう。ああ、それと」
「?」
「そろそろデカ女に戻りなさい? あなたにとっても未知の状況なら、役に立つのはデカ女の方です。あなたでは役者不足ですよ」
リサがミコの方を見て、静かに告げた。その様子があまりに平静すぎて、逆にミコは怖くなった。
「私に役立たずなんて痛烈なことを言った人間は、初めてだわ」
「ですが、あなた自身も実感しているはずです。あなたは力ある存在かもしれませんが、精霊のいない土地では無力なのでは? ならば、アルフィリースの方が余程戦えるし、機転もきく。あなたは引っ込んで助言に徹した方が、あらゆる能率が上がるでしょう」
「・・・確かにそうかもしれないわね。わかったわ」
素直にミコが引いたので、ソールカがぎょっとする。
「ちょっと、ミコちゃん? 最後だって言ってなかった?」
「焦らないで。まだ大丈夫ですし、意識を引っ込めても消えるわけではない。アルフィリース本人とバランスを取るだけです」
「人間と精神のバランスを? そんなことのできる人間がいるの?」
「いるのですよ。それこそミーシャトレスいわく、運命のねじれ方次第では、アルフィリースがあなたと対成す御子として成長していたのかもしれないのですから」
「予言の黒の御子か。まさか人間がねぇ」
「とにかく、お願いしますよ。この遺跡では、ソールカ以上に戦える存在なんていないでしょうから」
「おっけー、任された」
ソールカが了解すると、ミコは一度ふらりとして、膝をついて。心配そうにリサとラーナが駆け寄るのを、アルフィリースが制する。
続く
次回投稿は、6/11(木)8:00です。