戦争と平和、その536~廃棄遺跡中層⑩~
祝、2000話? 祝ってよいのだろうか。ここまで読んでいただける読者の方に感謝を!
彼らは何事かを相談し、彼らは魔術を駆使して遺跡を作り上げているようだった。彼らが命令した通りに台地が動き、壁が削られ、穴が掘られる。土や岩を溶かし、金属を加工し練り上げ、それらを数瞬の内に同時に並行して行っていく。
その映像を見たディオーレが唸った。
「この魔術――いや、もはや魔法だな。あまりに桁違い過ぎて、寒気がする。こんな魔法があるなら、大地そのものの形が変わるぞ?」
「その通りさ。彼らは大地に積極的に干渉し、今の大地が出来上がるのを早めたんだ。この遺跡はその時に作られた補助装置のようなものだ」
映像では人間たちが転移魔術も使用しながら、現在の遺跡の壁などを補修する様子が流れていた。金属を転移で持ち込み、魔術で変形して加工する。やっていることは現在の魔術協会でも同じような発想が得られているが、その規模が桁違いだ。
映像は断片的だが、この遺跡が完成するまでにさほどの年月を要していないことは容易に想像がついた。そして映像は、この遺跡が完全稼働している時の様子が一瞬映しだされていた。
金属の人形兵が各部位ごとに作られ、組み立てられている。そこかしこに人間大のゴーレムが動き、彼らが巨大な金属人形を組み立てていた。そして巨大な畑からは食物が定期的に収穫され、人工的な太陽が遺跡の中で稼働し、塩水や火山流すら何らかの装置を経由して真水へと変換していた。そして映像は大小様々な容器が何千、何万と並べらている場所へと移る。
その容器の中身は動いていたようだが、詳しく映そうとするも、人のものらしき手が出て来て映像は止められた。映像を止めたのは、黒く長い髪をした、美しい女だった。
その顔を見たラーナが、思わずつぶやく。
「・・・何を作っていたの、彼らは? そして最後の女性は、アルフィリースに似ていませんでしたか?」
「何を作っていたのかはご想像にお任せするがね、想像がついた奴もいるだろうな。だが口にはしない方がいいぜ」
「なぜ?」
「恐ろしいことだからだよ。思っても口にするものではないし、世の中には知らない方がいいこともある。そして知っても良いことばかりとは限らない。今はまだ早い、それだけは言える。
ただ一つ言えることは、さっきの女はアルフィリースじゃない。似てるかもしれないけど、完全に赤の他人さ。それだけは断言しておく」
パンドラが遠眼鏡様の器具を箱の中にしまった。その場にいた者たちは無言になっていた。頭の中を整理する者、そもそも映像の意味が分からない者など、反応は様々だったかもしれない。
だが、ここでもいち早く発言するのはラインである。
「・・・ここが余程まずい物だったのはなんとなく理解した。俺はさっきの容器の中身も想像がついたが、答え合わせはしたくねぇな。いや、したらいけねぇんだろ?」
「そのとおりだ。やっぱりあんたは賢いよ。人の知性ってのは学によらないものだな」
「てめぇに褒められても嬉しかねぇ。それよりさっきの映像にちょっと映ったが、この遺跡の中心みたいなところがあったな? あれを潰せば、この遺跡は永遠に封印できるのか?」
「封印できるかどうかという話でいえば、その通りだ。だが永遠には封印しない方がいいかもな。それに今のお前たちの装備じゃ完全に壊すって方法は無理だ。そんなにこの遺跡は脆くない」
「じゃあどうする? お前ならできるってのか?」
「おそらくね。かつてこの遺跡を作る時に、俺は協力している。俺はおそらくこの遺跡の――」
そこまで言いかけた時に、ラインが突然ダンススレイブを振るった。パンドラめがけて飛んできた、飛翔体を打ち落としたのだ。飛翔体は鳥のようだったが、その羽が鋭い刃物のように鋭利だった。ラインに叩き落とされた後、再び浮いて暗闇に消え去ったのだ。
「なんだ?」
「ちっ、ばれたか?」
「誰に?」
「俺がここにいることだよぉ。この遺跡、一部稼働してるって言ったろ? 遺跡を荒らす者が出ないように、非常用の稼働能力は残しちゃあいるはずだが、本来なら俺かレメゲートがいなけりゃ開かないはずの遺跡なんだよ! それがウッコが外にいることもおかしけりゃ、あんな簡単に上層の底が抜けるのもおかしい。
いやがるんだ。俺とレメゲート以外に、この遺跡の抜け道から稼働させた誰かが! そいつがこの流れの黒幕さ」
「誰なんだよ、そいつは!?」
「知らないよ! だけど、真実を知られたら困るのかもなぁ。見なよ、派手なお迎えが来なすったぜ!」
パンドラが指さす先をソールカが照らすと、そこには大量に飛来する鋭利な鳥が見えてきた。
続く
次回投稿は、6/9(火)8:00です。