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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1999/2685

戦争と平和、その535~廃棄遺跡中層⑨~

「俺のことを忘れてもらっちゃ困るなぁ。謎と遺跡なら俺にお任せだろ?」

「なんだ、この珍妙な箱は? なんだかムカつくから、壊していい?」

「やめてください、ソールカ。無理に壊せば何が起こるかわからない相手です。パンドラ、あなたの記憶は大半が失われていると思っていましたが、何か思い出したのですか?」

「ちょっとだけな。この遺跡を俺は知っているようだ、懐かしい空気が漂っているぜ。レメゲートはいないが、俺の現在の知識でもできることはありそうだな。だけどな、あんたじゃだめだ」


 パンドラは上の蓋を開けて煙草を取り出すと、おもむろに吹かせて見せた。ソールカは嫌な顔をし、ミコは諦めたように暗い表情をした。


「不遜な箱だ。やはり壊そう」

「だからやめてくださいってば。パンドラ、私の言うことは聞けないと?」

「聞けないね。あんただってわかっているだろ? あんたの言うことを聞くように、俺はできていない。この大地にいる者全てがあんたの命令に従う義務があるかもしれないが、俺は違う。あんた自身も忘れたかもしれないが、そのための俺であり、レメゲートだったんじゃないのか?」

「私がそこまでの命令権を有しているわけではありませんし、その気もありませんが」

「だが、できなくもない。その気になりゃあ精霊にすら命令を下せるあんただが、精霊を拒絶したこの遺跡じゃ無力だ。銀の一族が精霊によらない力を発揮するのも、あんたが暴走した時の抑止力だからだ。あんたとソールカはたまたま仲が良いが、本来なら敵対する立場のはず。違うかい?」

「それは・・・」

「それに俺が契約したのはアルフィリース本人だ、あんたじゃない。そもそもアルフィリースは、俺に命令なんてしないね。やるとしたらお願いだけだ。だからこそ俺はアルフィリースと契約した。命令されるのは良い気分じゃないし、俺に命令できる存在なんていやしないんだから」


 パンドラの言いようにミコがぐっと詰まった。パンドラは灰を落としながら、説明を続ける。


「別にあんたのことが嫌いなわけじゃないし、あんたを責めているわけでもない。あんたは本来、支配者として命令を下す立場だ。だがそれだけじゃあ物事は動かないのさ。あんたの恩恵は少なくなり、あんたを崇め奉る習慣はこの大地からなくなった。

 時代遅れになりつつあるのさ、俺もあんたも、そこの銀の一族もな」

「だとしても、私はその責を――」

「そりゃああんただけだ。俺はこの大陸が滅ぼうがどうしようが、知ったことじゃないね。アルフィリースがもしこの大陸が滅ぶことを望むなら、俺は手を貸すぜ?」


 パンドラのその発言に、ソールカの表情が消えた。そして拳を握りしめると一歩を踏み出そうとする。その目の前にダンススレイブを一瞬で剣に戻して止めたのは、ラインである。当然、ソールカの金の瞳がラインを睨みつける。


「どけ、人間」

「いーや、どかないね。そんな簡単に煽られるようじゃ器が知れるぜ? もうちょっとこの小生意気な箱の話を聞いたらどうだ?」

「――聞き逃せる発言と、そうでないものがある」

「んなことわかってる。この箱もそれをわかっていてやってるのさ。試されているのはあんただ」


 ラインの言葉に、パンドラがニヤリとした。


「いいねぇ、さすがアルフィリースの相棒だ。そういう人間が成長するのを、この遺跡の製作者は期待していたのさ」

「もったいつけた言い方はその辺にしな、俺たちが何をすべきなのかさっさと吐け。この遺跡が不吉なもので、それをぶっ壊すなら今がいいんだろ? ウッコとやらよりも、それは優先されることなのか?」

「・・・おそらくな」


 パンドラは自らの頭で煙草を消すと、蓋を開けて煙草をしまい込んだ。そして開いた隙間から、にょきにょきと遠眼鏡のようなものを取り出して、それが金属人形の腹に映像を映し出していた。


「ちょいと昔話だ――つっても、断片的だがな。どうやら俺は相当に古い遺物らしい。この遺跡ができた当時の記録がありやがる」

「遺跡ができた当時だと――そりゃあ何年前のことだ?」

「だいたい四万年前だ」

「――色々とありすぎて、段々驚かなくなってきたな。お前たち、アルフィリースといるといつもこうか?」

「・・・そうかもしれませんね」


 ディオーレがふぅ、と溜め息をつく横で、ラーナ他数名が肯定した。パンドラは続ける。映像にはまだ草木が一本も生えていない大地と、噴火を続ける山々が映っていた。クローゼスが質問する。


「あの山の形――噴火しているのはピレボスか?」

「そうだ。かつてはピレボスも火山だった――グレーストーンはピレボスの横っ腹だな。最初に大地が隆起し、その後ピレボスが大爆発し、堆積された火山岩で出来たのがこの大地の始まりだ。やがて大地は冷え、空から届いた草木の種が芽吹き、この大地に緑が生える。その間に、再びの地殻変動で南と東の大陸は分断されたが、元は一つの大地だ。その変化が完了するまで、一万年はかかったな。この大陸の気象変動が安定したころ、この遺跡は作られた」

「作られた? 誰に」

「そりゃあ、他の大陸から来た連中に決まっているだろ?」


 パンドラの移す映像に、数名の人間が映っていた。



続く

次回投稿は、6/7(日)8:00です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝書籍化&コミカライズ 我慢して一先ずためてたらいつの間にか、 おめでとうございます。 [気になる点] この長編をギュッとする作業が大変そうだな〜 きっと「そこ削るの?」みたいなことも出…
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