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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1997/2685

戦争と平和、その533~廃棄遺跡中層⑦~

***


「いよっし、着いた」


 ソールカがすとんと大地に降り立つと同時に、光で周囲を照らした。地面に降り立った他の者は突然の移動とその衝撃に、多くの者が体勢を崩して倒れている。

 大半の着地が上手くいかなかったことが不満なのか、ソールカはふくれっ面をした。


「なんだ、ダサいなぁ。そーっと動いたのに、着地も上手くできないの?」

「あなたと一緒にしないでください、ソールカ。光に近い速さで動いて、止まるのが最も難しい。転移魔術ですら酔うのに、私の慣性制御と重力制御がなければ、体がねじ切れる人も出ますよ?」

「人間は脆いなぁ」

「銀の一族でも貴女が特別なのです」


 アルフィリースの反論にソールかが文句を言ったが、何人かが嘔吐しているのを見てそれ以上は強く言わなかった。比較的無事なのはベッツ、レクサスくらいで、ディオーレですら眩暈を感じて片膝をついていた。


「なんだ、これは・・・」

「うっぷ、気持ち悪ぃ」

「げほっ、げほっ・・・すみません。しばらく、休憩をいただいても?」


 ラーナなどは青い顔をして吐いていたが、ソールカとアルフィリースは彼女に見向きもせずに周囲の様子を探っていた。


「ソールカ、ここは?」

「さぁ? 着地しやすい広い場所を選んだつもり。下手に狭い場所で止まると、衝撃波が反響してもっとひどいことになるでしょ? それにソナーを打ったら、ウッコにも居場所がばれちゃう。できれば先制の一撃で片を付けたいんだけど、遠く離れた場所に来たみたい。落下する時にいくつか分岐があったけど、外したかな」

「そうですか・・・明かりは増やせないのですか?」

「目覚めたのが夕方であまり太陽を浴びてないから、できれば無駄遣いはしたくないなぁ」

「全力の四割くらいですか?」

「三割強かな。ウッコが回復したら負けると思う」


 ソールカの言葉に、思いのほか余裕がないことを知るアルフィリース。ウッコの居場所を探ろうにも、精霊のいない場所ではウッコの気配も希薄である。なのでまずは周囲の様子を探ろうとして、思わず目の前の像を見上げていた。


「これは・・・?」

「・・・なんだろうね?」


 アルフィリースの反応を見てソールカが光源を上に向けたが、そこには人間の数倍の大きさの像があった。ゴーレムの様にも見えるが、それにしては金属質で、二足歩行のゴーレムなど彼女たちの経験をしても見たことがない。

 あまり光源を広げたくないなと思いつつ、ソールカが周囲に複数の光源を放つと、周囲の壁には規則正しく等間隔で同じような巨人が並んでいた。それらの腕や足は細く、顔はなく、のっぺりとした顔だけがうつむき加減に彼らを見下ろしていたのだ。

 ソールカが光源を四方に飛ばしたが、見渡す限り金属の巨人はずっと並んでいるようだ。その数は100や200ではきかないだろう。ひょっとしたら千をゆうに超えるのかもしれない。

 この光景にはさしものソールカも不気味さを感じたようだ。


「・・・動くのかなぁ? 遺跡の管理者や門番に見えなくもないけど」

「よしてください。これが全て門番だとしたら、ここが私たちの死に場所ですよ」

「だよねぇ。ウッコどころじゃないかも。今は動きそうにないけど、こんな数の門番が一斉に動いたら――地上は何日で平らになるかな?」

「ここから全方位に出撃するとしたら、30日もかからないでしょう。シモーラはこれの存在を知っていた・・・?」


 2人がそうやって考えながら歩き始めると、他の者も誰となくそれに続く。今この2人を見失うと、真の闇の世界に取り残されることになる。まだ着地の余波が残る者もいたが、そこは我慢して歩き始めたのだ。


「広い・・・」

「誰がこれを作ったんだ?」

「魔術が――上手く組めない」

「大流は全く使えない。小流だけで魔術を組むようにしないと」

「お二人さんよ、ここはなんだい?」


 ベッツが先頭のアルフィリースとソールカに問いかけた。二人は左右の並び、それに時々交差する同じような通路の先を見ながら答えた。


「それがわかれば苦労しない」

「今検証中です。私たちにも初めての場所ですから」

「なんだよ、使えねぇな」

「何言ってやがる。どう考えても武器庫だろ?」


 突然の言葉を発したのはライン。その言葉に、全員が一斉に振り向いた。もちろんソールカとアルフィリースも驚いたような顔をしている。


「――なぜそう思いますか?」

「難しく考えるこたぁねぇだろが。こんなデカくてお世辞にも格好良くもねぇ人形をこれだけの数並べるなんざ、趣味でやると思うか? 軍隊でも閲兵の時にゃ整然と隊列を組むだろうが? それと同じで、こいつらは出撃待ちの兵隊だよ。もちろん、暇を何百年も持て余した奇人変人がいた可能性も、零じゃねぇだろうがな!」

「へぇ? 人間もたまにはいいこと言うね」


 ソールカが純粋に褒めたが、ラインは無視した。そしてアルフィリースが、自らの頭の中で騒ぐアルフィリースの声が大きくなったことに気付いた。


「もう起きた・・・? 早過ぎるけど、もう少し眠っていてほしい・・・え、なんですって?」

「どうしたの、ミコちゃん」

「ミコちゃんはやめてくださいって――え? 金属兵士の胸を照らせと?」


 アルフィリースの独り言に従い、ソールカが金属兵士の胸を照らした。どの兵士の胸にも、四つの文字が刻んであるが、それぞれ一つずつ違っているようだった。



続く

次回投稿は、6/3(水)9:00です。

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