戦争と平和、その531~廃棄遺跡下層②~
「旦那殿、これだけの戦力があればなんでもできるぞ? それを放棄するつもりかえ?」
「マリア、それは違う。手に余る力は身を滅ぼす。これらの戦力が意のままに扱えるという保障などどこにもなく、また反逆された場合に止める手段がない。そんなものは戦力とは呼べぬ、ただの暴力だ。
このような戦力を俺は必要としていない。マリアとて、このような者が足元をうろついていては、枕を高くして眠れぬであろう?」
「ふむ、確かに・・・ティランの遊び相手としてはよいかとも思ったが」
「その程度で収まればよいがな。人はおろか、魔人の手ですら扱えぬからこそ、遺跡なのではないか?」
浄儀白楽の言葉に、ブラディマリアは少し時間を置いたが頷いていた。
「たしかに、旦那殿の言う通りかもしれんな。じゃが、さきほどの鎧どもはいかがする?」
「攻撃対象にならぬというのであれば、我々は探索を続けるべきだろう。ウッコのことも気になるが、これだけの戦力が地上に溢れてみろ。オーランゼブルもアルネリアも、そもそも我々も地上のことどころではない。こいつらは確実に滅ぼすべきだ。その手がかりだけでも探す。マリアにも協力してもらうぞ?」
「よかろう。たしかに、こいつらを見てしまったからには野放しにはできぬ」
浄儀白楽とブラディマリアは確かな決意と共に、さらなる危険地帯へと足を踏み入れて行った。
***
「・・・今、何かの断末魔が聞こえなかったか?」
「さぁ、気のせいじゃねぇのか?」
「いや、たしかに聞こえたべ。上のほうだべなぁ」
ベルゲイ、グンツ、ケルベロスがそれぞれ話しあっている。ドゥームは居住区と呼んだ場所で、記憶のなる杖を片端から試していた。その彼からあまり離れないように、仲間たちは探索をしている。
だが目ぼしい物は何もなく、廃墟と化した建物群が延々と続くだけである。記憶の杖が実をつけても、ドゥーム以外が口にすることはない。ドゥームだけが延々とその作業を繰り返し、光源として脂肪を提供するケルベロスは定期的に苦しみ、他の者は飽きてきていた。その時、遠くで断末魔の声が聞こえたのである。
「中層というところからか」
「ウッコが死んだかのかしら?」
「うーん、それにしては声の調子が少し違ったような・・・」
「お前、そんなに耳がよかったっけ?」
グンツの疑問にケルベロスは耳を澄ますが、それ以上は何もわからなかったようだ。
「まぁあんな一瞬じゃあなぁ。オラにもわからないっぺ」
「つかぇねえ豚だな」
「お前よりは役に立つっぺ」
「んだとぉ?」
「グンツさ、『可聴域』って言葉を知っているだか?」
「お、おぅ!? もちろんだ!」
「豚は豚でも、海豚っつー生き物がいるだが、あいつらは人間に聞こえない音で会話するべ。オラもちょっとだけできるんだなぁ」
「やってみろや!」
グンツがケルベロスを挑発したが、ケルベロスが呆れていた。
「グンツに聞こえない音で会話しても、意味がないべ」
「るせぇ、やってみろって言ってんだよ!」
「んじゃあ・・・」
ケルベロスは音を出したが、グンツにはピィピィと言う甲高い音が一部聞こえるだけである。もちろん誰にも聞こえなかったのだが――
「てめぇ、なんて言ってやがる!?」
「内緒だべ」
「グンツのばーか、すけべ、おたんこなす、だろ?」
「なんでドゥームさ、わかるだか?」
「テメェ、ぶっ殺す!」
グンツがケルベロスを蹴飛ばしたが、ドゥームはふぅとため息をついて記憶の杖を回収した。
「だめだ、何も引っ掛からない。ここができた瞬間までさかのぼってみたけど、人の記憶がない。この建物は、何らかの方法で『自動的に』作成されている。誰かの意志が介在していないのなら、記憶の杖では探り様がない」
「自動的に作成? 建物が勝手にできたというの?」
「そのようだよ。魔術を構成するのと同じように、設計図の様なものを魔術で編んでおけばひょっとしたら作れちゃうのかもね。まるで鋳型に鉄を流し込むようにさ」
「それは――人間の方法ではないわ。それこそ精霊、あるいはそれ以上の神の如き所業だわ」
オシリアの言葉にドゥームは頷いていた。
「そうだろうね。魔術が使えない者たちや非力な人間からしたら僕たちだって十分に理解不能な存在だろうけど、また何回りも高次元の存在がここを作ったんだよ。素材もよくわからなければ、動かし方もわからない。魔力を通そうにも、精霊がいない。いったいどうやってこの建物を使うのやら。降りる時まではさっきの記憶で何とかなったけど、ここから先はわからないなぁ」
「・・・もっと事態は単純なのではないか?」
ベルゲイの発言に、ドゥームがうろんげな視線を向ける。
続く
次回投稿は、5/30(土)9:00です。