戦争と平和、その530~廃棄遺跡中層⑥~
「何をどうすればこうなるのじゃ? 旦那殿、方術でこのようなことができるかえ?」
「似たようなことはできるが・・・そうなると、俺以上の使い手だな。そんな者にはここ数十年、会ったことはないが」
「ではこれはいったい――」
ブラディマリアが呆然としたように呟くのは非常に珍しいことだったのだが、浄儀白楽にもそのようなことを気にかける余裕はなかった。戦いは光の明滅にてわかったが、それらが一層激しくなったことから、戦いがおそらくは先ほどの本体とおぼしき相手に移ったのだと判明した。
もう少し近づこうとして、浄儀白楽とブラディマリアは先ほどの蛇のように長い魚の頭がそこかしこに落ちていることに気付く。やはりそれらは綺麗に切断され、あるいは粉砕され、あるいは融解されていた。
そして凄まじい断末魔の叫びが聞こえたかと思うと、天井が一斉に燃えた。どうやら相手は相当に巨大だったらしく、数百歩分に渡って天井が燃え広がり、ゆっくりと中心付近が落下していることに気付いた。
「もう決着がついただと?」
「早過ぎる。身を隠す暇が――」
浄儀白楽がそう言いかけて、既に周囲を三体の鎧に囲まれていることに気付いた。全身鎧の騎士のような風体の三体は、ゆっくりと浄儀白楽とブラディマリアの周りを回った。得物はそれぞれ剣、槌、鞭。鎧の形は現代のそれと似ている様で非なるものであり、紋様がほどこされながらも、尾があったり、肩に妙な突起物がついていたりした。特徴的ななのは目元であり、横一線に開いていたり、十字になっていたりするのだ。目でみるだけなら、そのような開け方は必要ないはずだが、どこからどこまでが装飾で、どこからが実用的なのかがわかりにくい鎧生物だった。
そしていつの間にかその周囲には一つ目の獣たちが付き従い、2人は逃げ場所を失くしていたのである。ブラディマリアは構えて戦う姿勢を取ったが、浄儀白楽は両手を挙げていち早く戦闘の意志がないことを示した。
「待て、こちらに戦闘の意志はない」
「旦那殿?」
「落ち着けマリア。相手が殲滅する気なら、最初から問答無用でやっている。そうせぬということは、見極められているということだ。こちらからは戦う理由もなければ、意味もない。無用な戦いは避けるべきだろう」
「それはそうじゃが」
「――解析完了、魔人と人間と確定。アハティは殲滅済ミ。如何しまスか、管理官?」
鎧の一体が上を見ると、ローブ姿の鎧が音もなく頭上に浮いていた。ふわふわと浮かぶその姿から殺気が出ているわけでもなく、さりとて魔力が放出されているわけでもなく、ただただ存在感が希薄な相手だった。
その存在に気付けなかった2人は自らの不覚を恥じていたが、それ以上に相手の意図も強さも読めないことが薄気味悪く、ただその場から相手を見上げるしかなかった。
そしてコマンダーと呼ばれた鎧は、無機質な声で言い放った。
「――稼働時間に限りがある。殲滅優先順位は実験体03、ウッコが優先される。兵士とビーストは全てそちらを優先せよ」
「「「了解」」」
その言葉とともに、一斉に2人を取り巻いていた者たちは散開し、闇の中に消えた。そしてコマンダーもそのまま天井の闇に消えていた。再び静寂が訪れたその場では、パチパチと音を立てて、先ほどの巨大な魔獣が焦げた臭いを出しているだけだった。
浄儀白楽は緊張を解いたが、ブラディマリアの方はまだ緊張感が解けていないようだった。
「――行ったか。よく我慢したな、マリア」
「――我慢したのではない。単純に、かかっていけなかったのじゃ。おそらくじゃが、戦っておれば死んでいた。妾の記憶の片隅にある言葉が告げる。あれは管理者――しかも、いないはずの管理者じゃ」
「管理者?」
「遺跡――この大陸の成立よりあるとされる、古代の遺跡。その役目は定かではないが、この世に非ざる力をもつ様々な物をもたらすとされる。非力な人間が魔王を駆逐したのも、この中のいくつかを手にしたからじゃと。
その遺跡の支配者が管理者じゃ。黒の魔術士でも何度か攻略戦が計画され、実際に一度門番を退けることに成功しておる。妾は出産直後で参加しておらぬがの。その時、アノーマリーとドゥームが遺跡の奥で何やら発見した様じゃ。それが何をもたらすのかはわからぬが――さきほどの魔獣を軽く退ける戦力。それが遺跡の一部だとして、もしこれだけの容器の中にいる魔物どもを率いることができるのなら」
「遺跡に関しては少々知ってはいたが、想像以上に脅威だな。できることなら破壊してしまいたいが・・・」
その言葉に、ブラディマリアが驚いたような顔をした。
続く
次回投稿は、5/28(木)9:00です。