戦争と平和、その529~廃棄遺跡中層⑤~
「あれも古代の魔獣か。まだ目覚めたばかりで助かったようだ」
「目覚めたばかり?」
「一際大きな容器が3つ、割れた跡があった。はっきりとは見えなかったが、おそらくはあれがウッコとアッカなるものが入っていた容器ではないだろうか。そして最後の1つは割れたばかりだった。何らかのきっかけがあって、つい先ほど外に出てきたのだ」
「ウッコの覚醒に関係があるのか?」
「わからぬ。だがもう一つ心配なのは、奴がなぎ倒した容器から出てきた連中だ。死んでいたとばかり思っていたのだが、動こうとしていた連中がいた。もしこの容器の化け物共が死んでおらず、動くというのなら――マリアよ、どう思う?」
ブラディマリアは周囲の容器を見渡し、厳しい表情で答えた。
「旦那殿、妾は最強の生物を自負しておる」
「無論知っている。それが傲慢とも思わぬ」
「じゃが、その妾があえて言おう。こやつらが全て起きれば、とてもではないが妾は抑えられぬ。疾く、対策を考えるべきじゃ」
「だろうな。そうなれば癪ではあるが、上にいるアルネリアにも協力を仰ぐ必要があるかもしれぬ。少なくとも我々だけでは手数が足らぬ――?」
その時、浄儀白楽が先ほどの魔獣がいた方向に振り返った。浄儀白楽の頬を、一筋の汗がつう、と伝う。
「馬鹿な、監視用に配置した式神が食い破られた?・・・マリアの移動速度より早くなっただと?」
「どうした、旦那殿?」
「マリア、迎撃態勢を取れ。奴らが来るぞ!」
「なぜじゃ? あの速度差なら、当座追いつけぬくらいの距離は離したであろうに!」
ブラディマリアの体がさらに変形を始める。腕は鱗で覆われ、頭には角が生えた。魔人として、全力を出す時に等しい姿に体を変える。浄儀白楽も上着を脱ぎ棄て、戦う姿勢を取った。同時に四方に明かりとなる符を放ち、視界を確保する。
その彼らめがけて、まるで矢のように敵が襲来した。
「羽の生えた魚じゃとぉ!?」
「奇怪な!」
羽の生えた魚たちは鋭い牙をもった口をくわっと開けて、2人に襲い掛かった。ブラディマリアはそれらを腕力で叩き落とし、浄儀白楽は逸らして他の容器に衝突させたり、器用に羽だけをむしり取ったりして墜落させた。
魚たちは次から次へと飛来するが、2人の手数がそれを上回る。
「この程度、魔術などなくとも!」
「面倒だな、式獣も使うか」
浄儀白楽が懐から符を取り出し、周囲に投げる。手で印を組み、方術を起動すると符は5体の鎧武者へと変化した。式獣たちは魚群に立ち向かい、着実にその数を減らす。しばらくして、飛来した魚群はあえなくその死骸を無残に晒していた。
「もう終わりかえ? 大したことがないのぅ」
「いや、今度は走ってくる連中が来るだろう。数の暴力に負ける可能性もある。今のうちにまた距離を取るぞ、マリア。本体に追いつかれたら終わりだ」
「むぅ、この妾が逃げの一手しか取れぬとは」
「魔術が使えぬ以上、質量の大きい相手がどうやっても有利になるだろう。戦略的撤退は恥ではない」
「仕方があるまい」
ブラディマリアは浄儀白楽の言に従い、大人しく浄儀白楽を抱えて宙に浮かんだ。その直後、多足で歩行する魚が大量に押し寄せて来て、浄儀白楽の式獣を飲み込んでいた。
「間一髪じゃったか」
「また飛来する魚がいつ来るかもわからん。早急に離れるとしよう」
「うむ」
ブラディマリアがさらに宙高く飛びあがり、眼下に魚の群れが見えぬほどの高さを保つ。そのまま降りて来た場所へと飛来しようとして、先ほどまでいた場所に光が複数灯った。同時に、魚群の断末魔の声が聞こえてくる。
「あれは?」
「・・・わからん。誰かが先ほどの魚共と戦っているのだろうが」
「戻るか、旦那殿?」
「光はどうやら大元となっている魔獣の方へと向かっているようだな。静かに後をつけてみるとするか」
「やれやれ、妾がこのようにこそこそせぬといけぬとはな」
「普段と違うことをしてみるのも、面白きことであろうよ」
「中々旦那殿のように柔軟には考えられぬよ」
ブラディマリアは一つため息をつくと、すいと降下して後をつけた。浄儀白楽は明かりをつけぬように闇に眼をならした。光をつければ、再度的になる可能性があるからだ。
だがその心配は無用で、周囲では炎を使ったのか、火の手が上がっていた。戦いがあったと思しき場所では血煙が上がったままで、金属製の床は一部が解け、周囲の容器は中身ごと真っ二つにされたりあるいは粉砕されており、魚共は容赦なく殺戮されていた。
続く
次回投稿は、5/26(火)9:00です。