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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1991/2685

戦争と平和、その527~廃棄遺跡中層③~

 ルナティカは叫ぶこともできず息を飲んで成り行きを見守っていたが、その直後隣にふわりとレイヤーが舞い降りた。どうやら獣たちを盾にして、自らは回避したらしい。間一髪のタイミングにしか見えなかったのだが、レイヤー自身は涼しい顔をしていた。


「これで少し時間が稼げる。行くよ、ルナ」

「え、ええ」


 レイヤーはルナティカを伴ってそっと部屋を出ると、レイヤーが入り口でまた壁をいじっていた。すると、出入り口が一斉に閉じて光が赤に変化したのだ。


「これでしばらく出られない。彼らをウッコの足止めに使う案はなくなったけど、しょうがないね」

「レイヤー、使い方がわかるの?」

「誘導に従って操作しているだけさ。ルナには聞こえないの?」

「何も」


 ルナティカのその反応を見て、レイヤーは初めてびっくりしたような顔になった。そして自分だけが聞こえる声のことで悩み始めた。


「僕だけが・・・そうか、そういうことか。ルナ、じゃあ表示された文字も読めない?」

「全然」

「うん・・・僕はね、読めるんだ。つまり僕はここの――」

「レイヤー。それを今明らかにして、何か良いことがある?」


 ルナティカがレイヤーの口に指を当てて、言葉を遮った。


「今肝心なのは生き延びること、そのために必要ならウッコを倒すし、手段の確保が必要。あなたの知識と能力が役に立つなら使う。だけど、あなたがどうだとか、今は関係ない」

「だけど――」

「だけどじゃない。あなた、とても苦しそう。そんな顔をしながら考えることじゃない。生きてたらゆっくり考えればいいこと。違う?」


 ルナティカの言葉にほだされ、レイヤーは考えを改めた。小さく頷いて、次のことを考え始めたようだ。


「わかった、ルナの言う通りだ。今は次のことを考えよう」

「それがいい」

「それなら、隣の倉庫で武器を確保するよ。使える武器が見つかるかもしれない。あと、気を付けないといけないのは、脚がない奴だ。これに見つかったら、死んだと思った方がいい」

「脚がない? どうやって動く?」

「浮いてる。そういうのを見たら、何をおいても逃げて。いいね?」

「わかった」


 レイヤーとルナティカは、隣の倉庫に向けて足音を殺しながら走り出していた。


***


 一方その頃、ブラディマリアと浄儀白楽は別の場所で散策を続けていた。


「むぅ、魔術がやはり使えぬ。ここは大流マナが極端に少ないの。小流オド以外での魔術が行使できぬと思った方がよい」

「つまり、無力か?」

「そこまでではないが、おおよその魔術というものは大流だけ、小流だけということはなく、自らの中にある小流を引き金として大流に接続して魔術の規模を挙げる。小流だけで魔術を行使しようとすると、あっという間に魔力が枯渇する。逆に何の働きかけもなく、大流だけで魔術を行使することは不可能じゃ」

「なるほど、俺がいてよかったな」


 浄儀白楽は、懐から符を取り出して光源とした。人型の符は宙をふわふわと浮きながら、彼らに先導して光源となり道を照らす。


「方術は大流とは別の機構で動くからな。符に内蔵した魔力が切れぬ限り、効果は永続する」

「うむ、助かる。しかしこんな方法で魔術が使えなくなるとは――精霊がおわさぬとは、いったいどういう場所なのか」

「貴様もやはり精霊には敬意を払うのか」

「当り前じゃ。格別配慮することはないが、精霊がいなくては力を使うことはできぬ。空に向かって唾しても自分に帰ってくるだけで、大地そのものを壊しても自らを羽を休めるところをなくすだけ。さしもの妾もそこまでの暴挙はいたさぬ。大地を這いずる人間の如き虫けらは、いくらでも潰してよいと思うがな」

「俺もその虫けらなのだが」


 やや不機嫌に言い放った浄儀白楽の頬に、ブラディマリアは口づけをした。


「旦那殿は別じゃ! 虫けらとはもはや思っておらぬ」

「そうか? ならば他の人間も虫けらには見えぬのではないか?」

「たしかに多少マシな者――志乃や藤太などもおることは認めるが、やはり人間は虫けらよ。数を減らした方がよいという考えに違いはない」

「そうか」

「嫌か?」


 ブラディマリアが珍しく少々落ち込んだような――それでいて浄儀白楽の機嫌を窺うように瞳を見据えた。浄儀白楽はしばしその視線を正面から受け止め、そしてその頭を撫でた。


「俺は――どうかな。人間の一人ではあるが、確かに貴様と同じく多くの人間は愚鈍にしか見えぬ。さりとて、どの種族が有能で愛でることができるとかと言われれば、それもまた違う。鬼どもと友誼を図れぬかと考えたこともあるが、人間よりも総じて有能であるものの、建設的な思考に欠ける。貴様のその前の時代、最初に大陸を仕切っていた種族に話を聞きたいと思う。いかに人間は生き延び、成長するべきなのかを」

「人間の可能性を信じておるのか?」

「信じていたい、というのが本音だ。追い込まれれば信じがたいほどの能力を発揮することもあるのが人間だ。もう少し考える時間があれば――成長する猶予があればと思うことは多々ある」

「千年の間、人間の愚かさは変わらなんだと思うぞ?」

「それはお前が人間を外から見ているからだ。変化というものは、外から人形劇をするようなやり方では動かせぬ。中に入り、共に泥にまみれてこそよ。オーランゼブルの奴に足らぬ思考はそれだ」

「・・・旦那殿はその態度や口調とは裏腹に、まっこと心根の優しき事よ。その本心を、もう少し詩乃や腹心共に打ち明けてもよいのではなかろうか?」

「そんな必要はない。むしろ俺のことは非道な君主と思っていてくれる方が俺も楽だ――?」


 その時、符が照らす光景の様子が変わった。地面が土ではなく、金属質の何かに変化したのだ。浄儀白楽は足で地面を踏むが、その感触が今まで知っているどの金属とも違っていた。浄儀白楽は慎重に歩を進めると、周囲にある建造物が何なのか気付き始めていた。



続く

次回投稿は、5/21(金)10:00です。

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