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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第二章~手を取り合う者達~
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竜騎士三人、その6~戦闘治療~

「ラーナ!」

「はい」


 先ほどからラーナは呼び付けられたものの、何をすればいいのかわからず、おろおろしていた。


「貴方は夢が扱えるなら、この子を眠らせる事も可能?」

「眠らせることはできますが、腹を裂くなら痛みはどうしようもないです」

「となると、ミランダも必要か」


 アルフィリースの求めに応じて、すぐにミランダも呼ばれてくる。


「何がどうなってるのさ?」

「説明している暇はないわ。この飛竜の腹を今から裂くのだけれど、飛竜にも効く痛み止めなんてのがある?」

「ん~麻痺薬ならあるから、上手い事使えば。でも飛竜に試したことはないよ?」

「なんでもいいわ。やって」

「あいよ」


 ミランダが麻痺薬を水に溶かし、太い針の様なものをドーチェの腹に射して流し込んで行く。ドーチェはそれどころではないのか、痛がりすらしなかったが、やがて表情が少し和らいだものになっていった。


「ドーチェ、どう?」

「グルルル・・・」

「痛みはだいぶ楽になったみたいね。ラーナ、眠らせて」

「はい」


 ラーナが催眠系の魔術でドーチェを眠らせる。これで腹を裂いても暴れることはないだろう。


「なるほど、こうすれば腹を裂いてもいいわけねぇ・・・」

「ユーティ、感心してないでどこを裂いたらいいか教えて!」

「あいよっ!」


 ユーティがアルフィリースに裂く場所を指示する。そしてアルフィリースは小手に仕込んである刃を取り出すと、ユーティの指示に従って丁寧に裂いていった。仕込み刃に気付かなかった騎士たちは一瞬どきりとしたが、もう今更何を言うでもない。

 やがて血がゆっくりと流れ始めたが、ユーティが大きな血管を避けるように指示していたので、内臓が目で見えるほどになっても、それほど血は出ていなかった。

 アルフィリースの額から汗が滴る。


「くそ、さすがに飛竜の腹は分厚いわね! 見えにくいったらありゃしない」

「もうすぐよ」

「ちょっと貴方達、ぼやっと見てるだけじゃなくて、手伝いなさい!」


 アルフィリースが竜騎士達を怒鳴りつける。そして視野が利くようにドーチェの腹を手で持って左右に広げさせた。竜の腹は厚く、大人が片方を3人がかりで持ってやっと固定できる。その様子を、女竜騎士はやや青くなりながら心配そうに見つめている。


「よし、これで見える。明りを」

「アタシがやろう」


 ミランダが魔術で明りをつけた。すると、ドーチェの腸の中に、何箇所か不自然な動きをしている個所がある。


「ユーティ、あれがそう?」

「そのはずよ。気をつけて、3匹いるわ」

「なるべく傷は最小限にしたいわね・・・頭から出てくるように仕向けるか」


 アルフィリースが腸のどこを切るか、狙いを定める。そして寄生虫の動きを見ながらそっと腸を裂き、逃げられないよう寄生虫が向かう方向の腸を紐で縛る。やがて寄生虫の頭が傷口に差し掛かったところで寄生虫の尾側をしこたま掴むと、驚いた寄生虫が内容物と共に腸の中から飛び出してきた。


「キ、キキキ!」

「き、気持ち悪い!」

「うひー、何だいこいつ!?」


 アルフィリースとミランダが同時に悲鳴を上げたのも無理はない。飛び出してきたのは蛭のような生物だったが、出て来るなりアルフィリースに噛みつこうとしたのだ。活きがいいにもほどがある。ドーチェの腹を持っている竜騎士達も女竜騎士も、唖然としていた。


「引っ張り出してやる!」


 すんでのところで寄生虫を掴んだアルフィリースが、寄生虫を引き摺り出そうとする。


「あ、あれ? あれれ?」


 だがその体は思ったよりはるかに長く、アルフィリースは勢い余って後ろに転んでしまった。


「うわぁ・・・」


 ミランダが思わず嫌悪の目を寄生虫に向けたが、寄生虫の長さは実に4m程度にも及んでいた。そして外に引っ張りされた寄生虫は、アルフィリースの体に巻き付き、今度はその体内に入ろうとしているのか口を目がけて突進してきた。


「な、何こいつ! ぐっ!?」


 その時め上げる力がまるで大蛇の用で、アルフィリースが体がめりめりと音を立てて締め上げられる。また突進する力も普通ではない。大柄なアルフィリースだからなんとか抑えているが、これがリサならば抵抗する暇もないだろう。


「ま、まずい」

「はっ!」


 アルフィリースが危機を感じる中、女竜騎士の剣が寄生虫の体を切り裂いていた。が――


「止まらない?」

「なんだこの生き物は?」


 アルフィリースに突進してくる頭の方は、まるで斬られたことを意に介してもいないように歯をガチガチと鳴らしている。そして、斬った方の傷口にも口が形成されていくではないか。


「ならば燃やしてやる!」


 アルフィリースが炎の魔術で、自分の体に巻きつく寄生虫に火をつけた。当然アルフィリースも火に包まれるが、地面を転げ回りながら火を消した。そしてようやく寄生虫は死んだのである。


「こんなのがドーチェの中に・・・」

「ユーティ、竜の寄生虫ってこんなのだっけ?」

「こんなの見たことないわよぅ。それより、あと2匹はいるわよ?」

「ああもう! 一大作業ね!!」


 そうして、アルフィリースはげんなりしながらも他の寄生虫の除去に取りかかった。


***


「ふぅ~大変だった」

「あー、まさかあんなことになるなんてね」

「随分と、ばっちい恰好で帰ってきましたね」

「何があったんだ?」

「それがね・・・」


 アルフィリースは今、宿の浴場に来ていた。この宿の名物は大勢で入れる浴場であり、しかもご丁寧に男女分けてある。水源が豊富なブリュガルならではの出来事だろう。

 先ほどのドーチェに対する治療、というよりはもはや寄生虫との戦いに近かったが、一通り寄生虫を倒し終えたアルフィリースはドーチェの腸の内容物まみれだった。それはミランダや腹をつかんでいた竜騎士達、近くで見ていた女竜騎士も同じで、さすがに汚れを落とすべく女竜騎士がこの宿の風呂を貸し切ってくれたのだ。

 後のことはユーティとラーナが傷を塞いでおくと申し出てくれたので、アルフィリースとミランダは風呂に一足先に入っているという寸法だった。もちろん交換条件で拘束を解かれたニアやエアリアル、リサや楓も一緒に風呂でくつろいでいる。


「なるほどな、そんなことが」

「では我々は晴れて釈放か?」

「そうだといいけど、用が済んだから掌を返されることもありえるわよねぇ」

「そんなことはせん」


 と、ぼやくアルフィリース達の所へ、件の女竜騎士が入ってきた。アルフィリース達は驚いたような顔をするが、女竜騎士の方がより彼女達の反応に戸惑ったようだ。


「なんだ? 何がおかしい?」

「だって、さっきまで私達を捕まえようとしてたのに・・・」

「私もしこたま汚れたからな。あの妖精に『あんた臭い、あっちに行け』と言われて、こっちに来たというわけだ。後のことは自分がやるから、邪魔だと言われてな。自分だって汚れているくせに、ひどい言いようの妖精だった」

「ユーティったら」


 その光景が容易に思い浮かべられたので、アルフィリースは思わず噴き出した。全員で笑う様子をその女竜騎士はじっと見ている。


「まだ疑いを解いたわけではないが、不思議な連中だな。悪い奴らには見えん」

「そりゃそうさ。アタシ達は清廉潔白な仲良し御一行だから」

「貴様だけはそうは見えんがな」

「なにぃ?」


 ミランダを不審気に見る女竜騎士に、ミランダが喰ってかかろうとする。そのやりとりを見て、またしても全員が笑っている。


「そういえば貴女の名前を聞いていないわ。私はアルフィリースよ」

「アンネクローゼ。家族などはアンネと呼ぶ」

「じゃあ私もアンネって呼んでもいい? 私の事もアルフィって呼んで」

「慣れ慣れしい娘だな。疑いを解いたわけではないと言ったろう?」

「えー、いいじゃない。とりあえずは争わないんだから」

「まったく・・・」


 実はアンネクローゼとしては自分達は追わないと約束したものの、この後他の部隊かヴィンダルの連中に連絡して追撃させるつもりでいたのだが、アルフィリースの緊張感のない態度に完全に毒気を抜かれてしまった。

 ため息を一つついて水浴びを始めるアンネクローゼ。


「ねぇねぇ、アンネっていくつなの?」

「22だ」

「じゃあ私よりお姉さんか~」

「アルフィ・・・はいくつなのだ?」


 アンネクローゼは愛称で人を呼ぶことに余り慣れていないのか、少し言いにくそうにアルフィリースを呼ぶ。真面目な性格なのだろう。


「私は18。次の春の季節が来たら19かな」

「そうか、傭兵か?」

「ええ、そうよ」

「女の身で傭兵とは大変だな」

「アンネこそ。その歳で女性で、もう偉い人なんでしょう? 隊長だとか言われていたし」


 その言葉にアンネクローゼが少し渋い顔をする。


「別に実績があるわけじゃないさ」

「え、ならなんで隊長に・・・」

「そりゃそうさ」


 ミランダが納得したとばかりに、ふふん、と鼻を鳴らす。


「ブルネットの髪、竜騎士、アンネクローゼ。アンタ、ローマンズランドの第二皇女、アンネクローゼ殿下じゃないのかい?」

「「「ええ!?」」」


 思わず全員が驚いてミランダとアンネクローゼを見比べるが、アンネクローゼはまたしても渋い顔をしたが、湯を頭から浴びて水を振り払い答える。


「知っているのならば仕方ない。いかにも、私はローマンズランド第二皇女、アンネクローゼ=メディガン=スカイロードだ」


 と、アンネクローゼは金の髪から水を滴らせながら名乗った。



続く


次回投稿は、5/2(月)20:00です。

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