戦争と平和、その525~廃棄遺跡中層①~
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「――つうっ!」
「ルナ、無事?」
「無事・・・みたい。レイヤー、なんてことを」
ウッコのいた場所から落下したレイヤーとルナティカ。ルナティカは引っ張り上げようとしたのに、レイヤーがするりと抜け落ちたせいで、結果的に二人とも落下した格好になったのだ。
レイヤーの直感を信じているルナティカとはいえ、さすがに底の見えない闇への落下は肝が冷えた。レイヤーの合図で縄鏢を放り投げ、でっぱりに引っかけることには成功したが、ハンスヴルは驚いたような顔をして、そして敬礼しながら落下していった。
他にも落下していた者がいた気がするが、ルナティカには気に掛ける暇もなかった。
「あの道化は?」
「ウッコの方に落下していった。おそらくは、真っ先に戦っていると思う」
「ただの空間じゃなかった?」
「意図的――なのかもしれない。落下する中で、道筋がいくつも分れていた。あまりにご都合主義すぎるよ。ウッコが落下したとして、別れるように仕向けていたとしか思えない。最初から床を抜く気だったのかも」
「誰が、何のために?」
「そこまでわからないよ」
レイヤーが闇を見通していたことも驚きだったが、それよりも冷静が過ぎるほどのレイヤーにルナティカは驚いていた。そして遠方から、地鳴りのような音が聞こえる気がする。おそらくはウッコとハンスヴルが戦っているのだろうが、音が反響しすぎてどこから鳴り響いているのか全く察することができない。
そもそも、真の闇では視界を確保することすら容易ではないのだ。ルナティカの目はまだ闇に慣れていなかったが、これほどの闇ではどのみち何も見えないだろう。
「何も見えない。レイヤー、わかる?」
「ああ、わかるよ。こっちだ」
レイヤーがルナティカの手を引いて歩き始めた。真の闇でよく歩けたものだが、驚くことにレイヤーは壁を探りながら、またしても何かを操作していた。すると、急に廊下に明かりが灯ったのだ。灯りは松明の様な炎ではなく、ヒカリゴケのように優しく淡い光でもなく、等間隔に並ぶそれは、無慈悲で義務的な光に見えた。
「もう少し明るくする?」
「ううん、これでいい」
「先に行こう。もしウッコが炎を出したら、こんな一直線の道じゃあ逃げ場がない。まずは拠点を確保だ」
「わかった。でもどこに?」
「700歩先、その左に食糧庫、さらにその隣に武器庫がある。使えそうなものをそこで調達しよう」
「どうしてわかる?」
ルナティカのその質問に、レイヤーは首を傾げつつも、
「なんでだろう・・・でも、さっき明かりをつけた時に、確認したんだ。案内図が書いてあったけど、なんで読めたんだろう・・・」
「そう・・・」
レイヤー自身が嘘をついている様には見えず、ただ混乱しているように見えた。ルナティカも勝手がわからないので、ここはレイヤーに従うしかなく、これ以上レイヤーを混乱させないように、質問を控えた。そうして無言のまま二人は進み、果たしてレイヤーの案内通りに到着したのだった。
「ここだ」
「開けられる?――は、愚問ね」
「開けられる――ね」
レイヤーは手慣れたように操作して部屋の中に入った。そこには山のように積まれた食料らしきものと、水が配置してあった。
レイヤーが再度操作をして明かりをつけると、その広さたるや、イェーガーの敷地全てよりも広いくらいだった。その広さ一面に、食糧が敷き詰めてあるのだ。ルナティカは思わず唸った。
「これほどの食料――いったい何に使うつもりだった? 誰が食べる?」
「――養うため」
「誰を?」
「――実験体を」
「実験体?」
その疑問にレイヤーは答えることなく、すたすたと進んでいく。どうやら食料は区画ごとに種類があるらしく、レイヤーはそれらに剣を突き立てながら中身を確かめる。
「――違う、人間用じゃない――これも違う――これは腐っている――これは――ダメだ。食料はさすがに全滅か」
「この筒のようなものは?」
「おそらくは飲料水。だけど、罠もあるかも。投擲用の武器や、腐食性のガス、液体生物の可能性もある。迂闊に開けない方がいい」
「わかった」
レイヤーの指示に従い、ルナティカはそっと筒のようなものを棚に戻した。そしてレイヤーが目的のものを見つける。
続く
次回投稿は、5/20(水)10:00です。しばらく連日投稿になります。