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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1988/2685

戦争と平和、その524~廃棄遺跡下層①~


「――これがおそらく正規の入り口だ。向こうの縦穴は緊急避難用の出入り口で、ウッコがいたところの穴は単純な崩落だろう。

 ここは中層じゃなく、下層。中層はさっき通ってきた場所さ」

「こんな広大な空間がここに・・・いったい何の目的で?」

「ちょっと待っててよ。おそらくここをこうして・・・えい!」


 ドゥームが台座で何らかの操作をすると一瞬彼らの周りの世界が光り輝いた。白、赤、青、黄。様々な色で照らし出されたその光景は、この世界のどんな華美な都市よりも、王宮よりも光輝いて見えた。


「今のは?」

「ここは地下都市だったのさ。もう誰も住んでいないけどね」

「都市? こんなところに、誰が住もうとしたの?」

「想像はついているけど、その証拠をつかみに行くんだ。詳しくは下に降りたら話すよ」


 その光も数呼吸で消え去り、周囲は元の暗闇に戻る。ドゥームはケルベロスの脂肪を切り取って燃料代わりに即席の松明を作り、火を灯した。


「痛いだよ!」

「しょうがないだろ、光源がないんだから。これでちょっと痩せただろ」

「再生するだけだべ!」

「じゃあ燃え尽きたらもう一回よろしく」

「この鬼畜!」

「よぅ、俺にもくれよ、ケルベロス」

「私にも」


 グンツとミルネーにもたかられ、泣きながら松明を灯すケルベロス。まだ円形の台は下降を続けていたが、ようやく地面に到着すると音もなく着地した。

 そして前に出ようとしてグンツが何かに鼻をぶつけた。


「いてぇ! なんだこりゃあ!?」

「透明な硝子ガラス? 全く気付かなかったが、こんな透明なものが存在するのか?」

「ずっとこの台座を囲っていたよ? 現在の技術じゃあ作成不可能だよね、こんな精巧なもの。しかも強度から考えるに、硝子じゃあない。ケルベロス、殴ってごらんよ」

「よしきた」


 だがケルベロスの殴打にも耐える透明な物質。むしろケルベロスの方が強度で負けていた。


「びぐともしねぇ、なんて固さだべか!」

「何でできているのかしら、これ。私の力でも壊せないわ」

「あー、皆はぐれないようにね。この遺跡の歩き方を知っているのは僕だけだろうから、はぐれると帰れないよ?」

「ここは何なの、ドゥーム?」

「差し当たって、居住区だろうね」


 ドゥームは歩きながら解説する。照らし出される建物は、今の都市建築に使われる建材などは一切使用されていない。全く隙間なく、頑丈で滑らかな建材が建物を構築する。高いものでは数十階にも及ぶであろう集合住宅は、現在の建築技術を遥かに凌駕している。

 オシリアがふいに感想を漏らした。


「伝説に聞く、背信者の塔みたいね」

「なんだっけ、それ?」

「五賢者イェラシャは有翼族だったわけだけど、彼らが飛べることを羨んだ者たちが、精霊との約束事を無視して山よりも高い塔を作ろうとした。だけど、人の手に過ぎた塔は精霊に怒りに触れて稲妻を落とされ、壊されたと。それが背信者の塔よ。私が育ったゼアには、そういう伝説があったわ」

「昔の人間にそんな技術があったとも思わないし、そんな痕跡も見たことはないから、おそらくは何らかのたとえ話なんだろうね。だけどこれを見ていると、かつてそんなことをしていた人間が本当にいたのかもねぇ。

 というか、こんな深い地下にこれほどの都市を作れるのなら、山より高い建造物も作れたかもしれない」

「どういうことだよ?」

「これだけの空間を地下に造り、建材を運び込んでいるんだぜ。どのくらいの手間だと思う? さて、調べるにしてもどこから手をつけるか――」

「ウッコのことは放っておいていいのか?」


 ミルネーの質問に、ドゥームは天井を眺める。


「放っておこう。どうせ始末されるよ」

「誰に?」

「オーランゼブルってことはないだろうけど、ここに来ている誰かに。あるいは、ここにいた誰かに」

「ここにいた?」

「最下層は居住区だとして、上層は迷宮、では中層は? ミルネーがこの遺跡を作るとしたら、中層はどうする?」


 ミルネーはしばし考え、はっと思いついた。


「番人ね」

「そうだろうね。かつて遺跡を探索する際に、黒の魔術士の主だった戦力でようやく使い魔一体と良い勝負だった。ウッコはおそらく番人の一体だ。そしてさっき都市に灯りを点けようとした時に、中層でまだ稼働している個体がいることが表示されていた。おそらくは、最低限の迎撃機構がまだ残されているんだろう」

「では、中層に入った連中は」

「下手したら全滅だね。だから中層をすっ飛ばしてここに来たのさ。さぁて、ティタニアなんかには生きていてほしいけど、どうなるかな?」


 ドゥームは楽しそうに、だが一方ではやや残念そうに、複雑な表情で天井の上のあるはずの中層を見つめたていた。



続く

次回投稿は、5/16(土)10:00です。

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