戦争と平和、その523~廃棄遺跡㊳~
「感傷などとうに置いてきたわ。それよりもここを生き延び、ウッコを確実に仕留める方が優先だ。そしてこの下に何があるのかも。それ次第では、私の計画にも支障が出るやもしれんからな。
だが死者の肉体を辱めることを罪と呼ぶなら――確かに私に罪はあろうな。貴様が私の計画を見届けたうえで、それでも私のことが許せぬのであれば、その時は私の首を取る権利をやろう。貴様にはその資格があるだろう」
「いや――確かに死者の肉体をどうしようが、私にそれをとやかく問い詰める資格はないだろう。父と貴様にどのような約束があったかは知らぬ――だがしかし!」
ドルトムントの鎧の中の瞳がぎらりと光った。
「我が姉シェリーを殺したのは貴様に責があろう。その分の罪は償ってもらうぞ!」
「・・・よかろう。しかと承った。だが今はここより地下に集中せよ。我々とて、少々の油断が死に直結するぞ」
「わかっている!」
ドルトムントにしては鼻息荒く返答したが、確かに地下に降りるにしたがって空気が重く、冷たくなっていった。エルリッチも同じように感じていたが、下に降りるほどに力が抜けていくようにも感じられる。ライフレスも同じなのか、口数はより少なくなっていた。ブランシェだけが変わらず周囲を警戒していたが、それでも不安を感じているのか、やはり口数が少なく、ただじっと警戒をするだけにとどまる。闇と静寂と、台座の移動音だけが彼らを包んでいた。
一方、オーランゼブルが来たことで一度距離を取ったドゥームたちだが、肝心のドゥームがぶつぶつと何事かを呟いているので、仲間たちはただドゥームの命令を待つだけだった。
「よぅ、ドゥームは大丈夫か?」
「さぁな、私に聞くな。この中では一番の新参なのだから」
「ったく、つれねぇな。この中で一番人間しているのは俺たちだぜ? 仲良くしようや」
「ほとんど私たちにも人間の部分は残っていない。むしろクズで通った貴様よりも、そこのケルベロスの方がよほど知性的に見えるのだがな」
ミルネーの言葉に苛立ち、ケルベロスを蹴飛ばすグンツ。
「俺が豚公以下だとてもいうのか? 犯すぞ、テメェ!」
「この体でよければやってみろ。むしろオーク以下の鬼畜などという称号は、貴様にとっては褒め言葉だろうが」
「それもそうだな、ありがとうよ」
「納得しちゃう上に、お礼まで言うんだべか」
ケルベロスが呆れていたが、オシリアの言葉にも耳を傾けず跪いたままのドゥームの様子を見て、自分で周囲の様子を探り始めた。
「(ドゥームの頭がおかしいのは元からだども、余計におかしくなってるべなぁ。こりゃあ見限って逃走することもどこかで考えておくべきだべか・・・ん?)」
ケルベロスが横道を発見し、奥に部屋があることに気付いた。その地面がやや下っていることに気付き、ケルベロスは一度報告に戻る。
「ちょっといいだか? 妙な横道があるだども」
「待って。まだドゥームがおかしいままだわ」
「ドゥームはいつもおかしでねぇが」
ケルベロスの言い方に、ドゥームがすっくと立ちあがった。
「なんて言い草だ。ようやく考えがまとまってきたぞ。おそらくケルベロスが見つけたのは――」
ケルベロスが先行し、ドゥームが後に続くと、ドゥームは周囲の構造を少し調べただけで、壁の一部に触れた。するとそこに隠しボタンがあり、ドゥームはそれを操作すると何もない床が光って、その部分だけが円形にへこんだのだ。その中央には台座が出現し、光輝いて何らかの文字が出現している。
「これは・・・?」
「へぇ、お宝か?」
「ある意味では極上の宝だろうね。アノーマリーが生きていたら、涙を流して喜んだかも。全員乗ってくれ。下に向かうぞ?」
「下に?」
半信半疑の仲間たちが上に乗ると、円形の台が衝撃とともにへこみ、下に向かい始めた。台が下降を始めてからしばらくして上の部分は閉じてしまい、ドゥームたちが移動した痕跡はわからないだろう。
そして彼らは暗闇の中に包まれた。おそらくは下降しているであろう静かな振動音だけが彼らを包んでいる。どのくらいの時間が経ったのか。暗闇を住処とする彼らでさえ不安を覚えるほど時間が経過し、痺れを切らしたグンツが口を開こうとして、ドゥームたちの視界が360度開けていた。そこには――
「おいおい、こりゃあなんだ?」
「ドゥーム、これは?」
驚愕したのはグンツだけではない。ケルベロスも、ミルネーも、デザイアも、オシリアも同じだった。ドゥームだけは予測していたのか冷静だったが、目は見開かれたままになっている。
続く
次回更新は、5/14(木)10:00です。