戦争と平和、その522~廃棄遺跡㊲~
「この管理者・・・レーヴァンティンを持っている方が負けたのか? レーヴァンティンってのは山をも断つ魔剣だよな? それを持っている方が負けるって・・・どんな戦いだったんだ? くそっ、断片的なのが気に食わない!」
「ドゥーム・・・何を見たの?」
「とんでもないことを知ってしまったかもね。だが今は――」
その時、足場がぐらりと揺れた。
「な、なんだ?」
「動いてるべ、この足場!」
「それも大変だが、上から何か来るな」
「・・・あれは、オーランゼブルか! 一旦退避するぞ!」
闇の中でも視界を失わないドゥームがいち早く気づく。ドゥームの声に反応し、いち早く全員がその場を離れると、上からはゆっくりとオーランゼブルとライフレス一行が降りてきた。
「ふむ、縦穴もここまでか。アルネリアの者との鉢合わせを防ごうと思ったのだが」
「だがお師匠様、この足場はさらに沈んでいるようだ。ウッコと思われる魔力の発生源も下に落ちたようだし、このままここにいればいいのではないか?」
「絡繰りはわからぬが、そのようだな。だが降りているというにしては、不安定な衝撃だな」
「オウサマ、アルイテルよ、コレ」
ブランシェが指さした足場は、横から蜘蛛のように足が生えて、ゆっくりと下に向かっているようだった。その事実にオーランゼブルが難しい顔をした。
「・・・この遺跡はかつて探索した際には、何もなかった。奥にある扉は開かず、この縦穴もここまでしか入れなかった。ここから下には大流が極端に少なく、魔術の行使――つまり、浮遊の魔術の使用が困難だったからな」
「ふむ、そうなると俺も魔術の行使は制限した方がいいな」
「そうだな。ここでは貴様の不死性も失われる可能性がある。使うほどに消耗するだろうから、戦うのは下僕どもに任せた方がよかろうな」
オーランゼブルの言葉に、密かにドルトムントが殺気だった。
「(ここから先、魔術の行使が制限される、だと? ならば、こいつを斬るなら今が好機か)」
まだ剣の柄に手をかけてはいないが、左手がぴくりと動いてしまった。それに、いつぞやのオーランゼブルの話をドルトムントは覚えている。
「(こやつ、王の妻を――私の姉上を殺したと言ったな。長らく誰に殺されたがわからなかったが、こいつが仇だった! 殺す、必ず殺す。こいつが姉を殺しさえしなければ、我々が築いた王国はもっと長らく平和だったはずなのに――)」
「・・・というわけで、私も私の下僕を召喚することとする。状況によっては二手に分かれる必要が出るかもしれぬしな」
≪召喚≫
オーランゼブルの召喚に応じて、隣に三体の下僕が現れた。一人は人間のような剣士、一体は巨人よりも二回りほども大きな巨人、そしてもう一人は長い銀の髪をした女だった。
その中の一人、人間のような剣士の姿を見た瞬間、ドルトムントが剣に手をかけて殺気を解き放った。
「オーランゼブル、貴様!」
「ほぅ、やはりそうだったか。貴様、闇人の生き残りだな? 私の前では決して兜を取らぬから確信はなかったが、やはりそうだったのか。絶滅したと思っていたが、もう最後の一人ではないのか?」
「ど、どうしたドルトムント。よせ!」
まだここでは魔術が使用できる。仕掛けるにしてももっと地下に降りてからだと考えていたエルリッチが慌てて間に入り、ドルトムントはすんでのところで止まった。ライフレスが強い目つきでドルトムントを睨んだせいもある。
だがドルトムントもすんでのところで抜剣まではしなかったが、感情の制御まではできていないようだ。
「それは――それは、私の父だ! 貴様、父まで手にかけたか!」
「そうか、貴様の父だったか――だがこの男を殺したのは私ではない。むしろ私と彼は友人だった。戦いの最中死んだのだが、その亡骸を有効活用させてもらっているだけだ。これは彼の遺言でもある――共に平和な世を作ろうという約束をしたのだ。
屍魔術はライフレスだけの固有魔術ではなく、それに精神束縛を応用して操っている。もっとも全盛期の戦闘力を発揮するほどではないが、それでも私の護衛としてなら十分だろう」
「屍魔術だと? では」
「他の二体もそうだ。一人はブロンセル。貴様達たちも知っているかもしれぬが、五賢者の古巨人だ。いま一人は銀の一族の戦姫であり、私の妻だった女だ」
「は? 貴様、自分の妻をそのような――」
「使えるものならば何でも私は使う。既に妻は死んだ。妻の魂は既にこの世にはなく、ただその肉体のみだ。私が愛したのは妻の魂だ。肉体など、どうでもよい」
オーランゼブルはそう言って三体の亡骸を見たが、その瞳が少し悲し気に見えたので、ドルトムントは剣を握る手を緩めていた。
オーランゼブルは続ける。
続く
次回投稿は、5/12(火)10:00です。