戦争と平和、その521~廃棄遺跡㊱~
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「さて、どうしたものか」
アルフィリースたちがさらに下層へと向かった後、一番困っていたのは拳を奉じる一族のベルゲイである。ベルゲイはティタニアを追跡してここに来ていたが、その追跡はアルネリアの探索速度を上回るものではなかった。そのため結局アルネリアの探索部隊と合流してティタニアを追跡することになったのだが、聞いた話ではティタニアはアルフィリースたちよりも先に下層に向かったとのことである。
そのアルネリアの先遣隊はこれ以上下層へと自力で向かうことはできないようであり、現在入り口付近に陣取る本部のミランダに今後の対応を聞いている最中だった。ミランダから連絡が来るにしろミランダ自身が降りて来るにしろ、ここまでの道程を考えれば一刻はゆうにかかる。その時間をただ無為に過ごすわけにもいかず、ベルゲイは独自に周辺の探索を開始した。
そして見つけたのはさらに地下に続く大穴。ティタニアが利用し、レイヤーとルナティカがハンスヴルに放り投げられ、アルフィリースたちがクローゼスの魔術で滑り降りた大穴。今その穴は円形の足場にて塞がっているのだが、隙間からさらに下に降りれなくもなさそうだ。
だがその下を覗き見るも、当然何もない空洞なわけで。どこかに繋がるのか、それともただの縦穴なのか、それすらも定かではないところに命を賭けるには、あまりに無謀だと考えていた。
「先ほどの穴を降りた方がまだ現実的だな。戻るか」
「いいや、そうでもないかもよ?」
ベルゲイの目の前に、黒い靄の中から複数の人物が出現する。ベルゲイは構えて警戒したが、現れたドゥームは両手を挙げて戦闘の意志がないことを示した。
「ベルゲイでいいかな? 僕は黒の魔術士のドゥームだ・・・といっても既にオーランゼブルには反逆しているから、裏切り者ってことになるのかな? こちらには戦う意志はない、どうか話を聞いてくれ」
「・・・黒の魔術士かどうかによらず、貴様の気配は邪悪そのものだ。疾く成敗するのが世のため、人のためになるとしか思えんな」
「そんなこと言えた義理かよ、復讐者の一族め。こいつは取引だ。互いのことが気に食わなかろうが正義があろうがなかろうが、利益が互いにありさえすればいい。そうだろ?
あんたはティタニアを追いたい、僕はこの遺跡のことを調べてオーランゼブルに一泡吹かせたい。どうだ、協力するか?」
ドゥームの率直な物言いをそれなりに信用したのか、ベルゲイは構えを解かないまでも頷いた。
「・・・いいだろう。貴様を信用することはないが、話を聞こう」
「話は簡単だ。こちらはこれからここより下の階層に向かう。僕はこの遺跡で情報収集をしたい。その際にティタニアが邪魔になれば、始末してほしい。それに可能ならレーヴァンティンの確保。どうやらレーヴァンティンはティタニアが持っているらしいからね」
「レーヴァンティンに興味があるのか?」
「振れば山をも断つ剣だ。振れるかどうかは別にして、それほどの威力をどうやって発揮するのかは興味がある」
「まるで学者のようだな。遺跡を調べているのか?」
「縁があってね」
ドゥームはそのままベルゲイの脇を通ると、円形の足場の中央に向かう。そこに記憶の杖を指すと、杖からはゆっくりと実がなった。
「それはなんだ?」
「記憶の杖だ。これを指した場所で起きた出来事を見ることができる。時間帯は指定できないが、いつもと違う出来事があった時のことがよく見える。これはこの杖を使っていて気付いたことだけどね」
「つまり、こんな場所では何か起きた時の方が少ないということか。それならば、手掛りが得やすいということだな?」
「ご名答。頭も回るようで何よりだ」
ドゥームが杖になった果実を口にすると、かつての出来事がドゥームの脳裏に流れ込んできた。だがよほど古い記憶なのか、映像がぼやけている。だが――
「――え? 嘘だろ? 壊れたのか、この杖?」
「どうしたの、ドゥーム」
「いや、まさか・・・そんな・・・なんで遺跡の管理者が二人いたわけ?」
ドゥームが混乱していた。もちろん記憶の杖がつける果実から得られる記憶は断片的なもので、前後の脈絡は不明であることが多い。だがドゥームが見た記憶では、恐ろし気な笑みを浮かべる管理者と、レーヴァンティンを持つ管理者が恐れおののきながら対峙しており、その二人の顔が全く同じだったのだ。
ドゥームは遺跡内に分体を放ちながら探索をしている。ティタニアが奥にある部屋に入り、レーヴァンティンを見つけた部屋で、先ほどの管理者と思しき個体が朽ちて横たわっていることにも気付いていた。
続く
次回投稿は、5/10(日)10:00です。