戦争と平和、その519~導師の会合③~
「いや――違うな。たしかに、御子こそは私が導師として生きる意味だった。だがそれとは別に、私はアルフィリースという存在を面白いと思ったのだ」
「ほう、面白いとは?」
「彼女の魔術への造詣、親和性は異常ともいえる。ひょっとすると、彼女は今まで生まれた御子などとは一線を画した存在になるのかもしれない。オーランゼブルに運命を翻弄され、御子として選別されてもなお彼女は自我を失わない。それどころか、古代の精神体や御子すらも御する兆候を見せている。
御子からの影響も当然受けているだろう。だが私には、それが彼女自身の資質に感じられてしょうがないのだ。ひょっとしたら行き詰まった我々とは違って、新たな人間の可能性を見出すとしたら彼女の様な存在ではないのだろうか?」
「随分と入れ込んだものだ。だが、その根拠を示すだけの事象には乏しいのではないだろうか?」
「いまはまだそうだ。だがもうしばらくの間、見守ってはくれないだろうか? あなたがたは既に人間世界に興味が失せていることは知っている。それでも、邪魔をしないでいただきたいのだ。そして可能なら、人間がが歩んでいく手助けをしてほしいのだ」
「まるで遺言のようだな、アースガル」
その指摘の後、しばしの沈黙が流れた――そしてアースガルはふっと笑ったのだ。
「そうかもしれない、いや、きっとそうなのだな。私は死ぬべき場所を見つけたのだ。そうか――言って気付いたのだが、三人の娘とはアルフィリースとその中にいる者たちのことか。御子を娘呼ばわりするとは、ミーシャトレスめ。それは気付かなかったぞ」
「何を呟いている?」
「こちらのことだ。しかと約束したぞ、同胞たちよ!」
それだけ伝えると、アースガルはその場をさっさと去ってしまった。導師たちはフードで表情も定かではないが、アースガルの行動に呆気にとられているように見えなくもない。全員がフードを目深にかぶっているが、その中の一人がため息をついた。
「あの若造めが・・・ある日突然我々の前に現れ魔術を教えろと押しかけの様に仲間になったかと思えば、去る時もまた勝手に行ってしまった。魔女などよりよほど長命で、精霊とともに過ごしてきた我々なのに、なんと落ち着きのないことだ」
「だが彼が仲間になってからは、時が経つのがなんと早かったことよ。退屈はせなんだな」
「そして奴の時代以降に導師となったもので、いまだ導師を継続できているのはもう一人のみ。他の者は全て導師として資質に欠けていた――そう考えれば、奴の情熱と才能、努力は本物だった」
「そうだね。その彼をして、我々は行き詰まっているとの評を下した。ああもはっきりと言葉にされると、些かこたえるね」
その言葉に、多くの者の口元が綻んだようにルヴェールには感じられた。そしてそのまとめ役であろうと感じられる者が、突然ルヴェールに話を向けた。
「そこの魔女。このターラムのまとめ役であるな?」
「・・・ええ、それが何か?」
「そう警戒せずともよい。我々は中立の立場だ。人間の味方ではないが、黒の魔術士の味方をすることもない。少なくとも、ここにいる者たちはな」
「アースガル導師の人となりから考えると、中立であっても油断できない方々だとは考えています」
その言葉に、多くの導師たちが笑った。
「ふっふふ、声に出して笑ったのは千年以上ぶりか。中々に面白い娘だ」
「私を娘よばわりできるだけでも相当なものです」
「そうだな、確かに相当に永らえてはきた。人間の身でありながら古竜や魔人などの7種族と時を共にすべく研鑽したのだ。精神はとうに崩壊していてもよかったが、アースガルが刺激的な日々をくれたおかげでなんとか保たれているようだ」
「刺激的――ただ性格が悪いだけだと思っていましたわ」
渋い顔をしたルヴェールに、導師たちは苦笑いする。
「それは否定せんが、あれはあれで気遣っていたのかと今では思う。そして奴がこの世を去る時は、導師の時代の終わりだろうと、薄々感じていたのだ。
どんなに緩やかでも時代は移り変わる。かつて人間が跋扈する世界が想像だにできなかったように――これから導師などというものは不要になるのだろう。おそらくは、魔女というものも」
「それは感じております。ですが、まだその時ではないでしょう」
「うむ。オーランゼブルの計画がどのような結果をもたらすか、それ次第ではあるな。我々は当初奴の計画に傍観を決め込む決定をしたが、今ではそれでよかったのかとも疑問に思う。
だから、保険をかけておこうと思う」
「保険?」
ルヴェールの言葉に、別の導師がこんこんと床を杖で叩く。すると、ルヴェールの手元に、ふわりと一冊の本と首飾りが現れる。
続く
次回投稿は、5/6(水)11:00です。