戦争と平和、その517~導師の会合①~
そしてソールカはアルネリアの騎士達が騒ぎ始めるのを見て、とりあえず穴の下を指さす。
「積もる話も質問もあるでしょうけど、まずは下に行きましょうか? どのみちここにいるのはよくないわ。私の仲間も下に行ったようだし」
「そうですね、アルネリアの騎士への説明も面倒でしょう。あなたのことを説明するには時間がかかりすぎる」
「それもそうだけど、よくない者が来るわ。黒の魔術士――とかいう連中だったかしら? その体では不都合もあるでしょう」
ソールカの指摘に、アルフィリースに代わった者は苦い顔をした。
「――察しがいいのね、相変わらず。詳しくはあなたにも語ったことがないはずなのに」
「本来ならもう少し頻繁に顕現できていたはず。だけど、人格の成熟よりも力の表出の方が早すぎて、本来の役目を果たすほどに成熟する前に死んだことが何回あったのかしら?」
「数えていませんよ、そんなことは。私が私としての自我を持つ前に、たいていは死んでいますから。自我をもったのが数百年ぶり、なんてことはざらです。それでもろくな死に方はしませんでしたね。いつの世でも、魔術を使える者に対する偏見だけでなく、異質な者に対する恐れというものはあるのだから。
今回は奇跡に近い成長をしています。肉体的には成熟しているし、あなたの覚醒と同時期になった。ただ――」
「これが最後ね?」
ソールカのその言葉に、小さく、しかしはっきりとアルフィリースの姿をした者は頷いた。
ソールカは一瞬目を伏せ、そして力強く頷いた。
「やはりそうなのね――以前ほどの力を感じないもの。かつては管理者すら統括したあなたなのに」
「古い話だわ――だからこそ、消えてしまう前にやり残しを終わらせる。この大陸を脅かすものをそのままにはしておかない」
「そうね、それは私たちに共通した役割だものね。差し当たってはまずはウッコ。ただ本当の目的は――わかっているわね?」
「ええ、わかっているわ。ウッコを保護した者を明らかにする必要があるわ」
「ならいいわ。でもこの子たち、本当に連れて行くつもり?」
ソールカがちらりとアルフィリースの周囲にいる者たちを見渡したが、多くの者が緊張した面持ちを隠せない。
それを見てソールカは少々困ったような表情をしたが、アルフィリースの姿をした者はふふっと笑った。
「それは、初代の戦姫たちに同じようなことを言われていたのでは? 力は強いくせに、ソールカ姫様は頼りないって」
「あー、それを言われてしまうと弱いわ。太陽の戦姫としての威厳も何も、あなたの前ではあったものではないわね」
「黒の御子であるこの子に私が憑依し、あなたに出会うのも大きな流れを感じるわ。さ、行くわよ。下の状況がどうなっているのかわからないし、下の世界では銀の一族の戦闘力が頼りになるでしょう」
「精霊のおわさない空間、か。何が待ち受けているかしらね。まったく、シモーラももうちょっと肝心なことを話しておいてほしいものだわ」
ソールカはぶつぶつと文句を言いながら、全員を光で包んだ。他の誰もが反応する暇もないほどの一瞬で、アルフィリース一行とソールカの姿はその場から消える。
残されたアルネリアの騎士たちはアリストをはじめとして、全員が呆然としているのみだった。
***
「――動いたか」
「誰がですか?」
アルネリアからはるか離れたターラムにて、導師アースガルのつぶやきにルヴェールが反応した。アースガルがアルフィリースに関わるようになってから、ルヴェールは頻繁に彼の元を訪れている。元々師事したこともあるし、ターラムについて話し合うこともたびたびあったが、アルフィリースに関わるようになってからアースガルは積極的に導師としての行動を開始していた。
ターラムの結界の整理、黄金の純潔館を通じて施療院への助言や寄付、魔術や気の流れが良くなるように区画整理にまで助言をするようになった。そのせいか、ターラムで発生する犯罪件数が明らかに減っているのだ。あれほどの混乱と自警団の組織編成があったにも関わらず、ターラムは混乱に大きな見舞われていないのは、少なからずアースガルの力があるはずだった。
そのアースガルだが、ここ数日は自宅の工房に籠り、じっと地面を眺めていた。ルヴェールは地面に描かれた図形が大陸全土図のようなものだと気付いたが、天井から吊り下げられた錘が、独りでに動き出して一点を指して止まった。ルヴェールは錘が指した地点を見て、胸の奥に迫る嫌な予感を感じた。
続く
次回投稿は、5/2(土)11:00です。