戦争と平和、その516~廃棄遺跡㉟~
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そして時間は今に戻る。アルフィリースたちはティタニアが落下した後、奥の部屋も含めて調べていたが、そこにアルネリアの先遣隊が到着した。率いていたのはアリスト。アリストはアルフィリースの姿を認めると走り寄った。
「アルフィリース殿、どうやって我々より早く? いえ、それよりもどうしてこちらに?」
「・・・アリスト殿、だったわね。少し事情があるのよ。聞かないでいただけると助かるわ」
「いえ、そういうわけにはまいりません。我々も任務でこちらに赴いているのですから。協力できるものなら協力したいところですが、その気はおありか?」
少し厳しくなるアリストの口調に、アルフィリースに代わっている人物は少し困ったような顔をする。
「邪魔はしないつもりよ、でも行動を一緒にはしない方がよいわね。付け焼き刃の連携は逆に邪魔になるでしょうし、互いの独自調査ということでよろしいかしら?」
「・・・アノルン様に確認せねば何とも言えませんが、基本的に我々はイェーガーに協力体制をとっています。協力することに吝かではなく、必要ないと言われればそれまでですが――あなたの気配はアルフィリース殿とは違うように感じられる。貴女は本当にアルフィリース殿ですか?」
アリストの手が剣にかかっている。まだ殺気は抑えているが、アリストの腕前なら殺気を発することなく攻撃することなど朝飯前だ。気色ばむイェーガーの面子を前に、アルフィリースが彼らを制した。
「これは異なことを。私がアルフィリースでなくて、誰だとおっしゃるの?」
「・・・リサ殿、彼女の言葉に二言はありませんか?」
「ええ、もちろん。このリサがアルフィリース以外のデカ女に従うとでも?」
堂々と言い切ったリサの手前、アリストはそれ以上何も言わずに引き下がったが、当のリサは冷や汗をかいていた。
そしてアルフィリースに成り代わっている者にひっそりと話しかける。
「とは言い切りましたが、どうするのです? ミランダが降りてくれば誤魔化せませんよ?」
「・・・アルネリアの彼らはどう出るかしら?」
「彼らの話を拾ってまとめると、どうやら魔獣が多数侵入しているようですね。アリストさんは先遣隊のようですし、まずはここまでのルートの安全を確保を優先するようです。出し抜くなら今でしょうね」
「そうですか・・・しかし出し抜こうにも」
「大流が足りないわ。今までの様な氷の橋は作れない」
クローゼスが穴をのぞき込みながら、首を振っていた。どうやらここは魔術の元となるマナが欠乏しているらしく、今までの様な長くてしっかりとした橋が造れないらしい。それにはミュスカデ、ディオーレも同意していた。
「穴の深さはそれほどではないけど、さすがにただ落ちたら死ぬわね。翼でもなきゃ無理よ」
「それに仮に降りたとしても、昇る手段があるまい。ここは橋頭保をしっかりと作り、ゆっくりと前進する方が吉だと思われるが」
「しかしそれでは――」
「お困りかしら?」
悩む一団の隣に、突然輝く光の髪をした女性が降り立った。何の気配もなかったのか、リサですら驚きに身を固めてその女性の姿を見つめるだけだった。
輝く黄金の髪は地につくほどに長く、それらを束ねてようやく地面につくのを避けていた。体にぴたりとした黒装束はヴァトルカやジェミャカと同じものだったが、さらに長身で豊満な肉体をしたその女性の姿は、女性でも直視するにはやや官能的に過ぎた。
突然なんの気配もなく現れたその女性に対し、一瞬の遅れと共に全員が距離をとった。ベッツやレクサス、ラインの警戒能力をもってしても、警戒が追いつかなかったのだ。
その女性はアルフィリースの代わりである者の肩に寄り添うように顎を置き、親し気に話しかけた。
「あら、がっかりしちゃうなぁ。別に敵じゃないのよ?」
「突然現れるからでしょう。その出現の仕方をやめなさいと、あれほど言ったでしょう、ソールカ」
「あなたが説明してよ、親友。私は怪しい者じゃありませんって」
「敵ではないかもしれませんが、怪しさは隠せないでしょう」
「妖しさって言って?」
「色気のなさは自他ともに認めるところでしたでしょうに。だから番ができないのです」
「私のせいじゃないもん、お役目のせいだもん」
ふくれっ面をしたソールカに、ふっと笑うアルフィリースではない誰か。リサはその者が笑い、緊張がほぐれたのを初めて感知していた。
続く
次回投稿は、4/30(木)11:00です。