戦争と平和、その513~廃棄遺跡㉜~
「ほほぅ! ほほっほぅ!!」
魔獣ウッコから生み出された魔物二体と、ハンスヴルが激闘を繰り広げていた。卵のような形の物体を射出すると、中からは二体の巨人が出現する。一体は炎を纏い、一体は風を纏う巨人。炎の巨人は触れるもの全てをその高熱で溶かし、風の巨人は触れたものを須らく切り裂いた。
そんな化け物を同時に相手取りながら、ハンスヴルは互角に戦っている。二体の巨人は動きも鈍重ではなくむしろ素早いのだが、ハンスヴルの動きはそれらをゆうに上回る。
炎の巨人が吐き出したマグマのような吐瀉物を前に出ながら避け、風の巨人が纏う風に逆らうことなく、流れに巻き込まれるようにして一撃を加えて離脱する。恰好こそ珍妙だが、その戦い方は芸術。レイヤーもルナティカも思わず見惚れていた。
「凄い」
「変な奴だけど、超一流。何をどうしたら、ああなる?」
「わからない。だけど、ただの人間じゃなさそうだ。速度も膂力も人間のそれじゃないよ。気功――でもないのか。特性持ちとも少し違うようだけど――そうか、王種か。それも複数の王種を狩ったのか。それなら納得がいく――だとしたら、倒すためには少し準備がいるな――できれば下に行って、6号倉庫から――」
「レイヤー?」
レイヤーの独り言にルナティカが不穏な空気を覚え、その脇を小突いた。だがレイヤーは変わらずぶつぶつと呟いている。
「――いや、盾も必要か。マッキナたちも起こした方がより確実――だけど稼働するために動力が足らないのなら、いっそマリオネットビーストで――」
「レイヤー、レイヤー!」
ルナティカが揺さぶったことでようやく我に返るレイヤー。その心配そうな瞳に、はっと自らの発言を顧みるレイヤー。
「僕、何か言った?」
「ええ、訳の分からないことを次々と」
「シェンペェス、何か教えようとしてくれた?」
「(いや、何も言っていない。というか、マスターが私にもわからない単語を使っていた。マッキナとかなんとか)」
「マッキナ? なんだ、それ」
レイヤーの変化にルナティカもシェンペェスも言いようのない不安を覚えたが、シェンペェスとルナティカが意思疎通できるわけではなく、彼らの不安はしこりのまま残ってしまう。その時、部屋の外からも衝撃が伝わってきたことで、戦況に変化が出たことに誰もが気付く。それはハンスヴルも、彼と戦う二体の巨人も、そしてウッコも同じだった。
「外で誰かが戦ってる?」
「あれは――ヴァトルカとジェミャカ?」
ルナティカは半分開いたままの扉からちらりと覗いた銀髪が誰か気付いた。だがそれだけではなく、あと二人――彼女たちよりも髪の長い女性がそこにいるようだった。
「あとは――誰? 金の髪の女と、東の大陸の――衣装に見える」
「誰も彼も凄い使い手だ。奥の部屋で身を隠した方がいいかも」
「そうね――?」
レイヤーの提案にルナティカが同意しかけた瞬間、轟音とともに扉に凄まじい衝撃があり、ブラディマリアが部屋の中に転がり込んできた。扉はまだ震え、ぱらぱらと天井の一部が崩れる。どうやら扉はさておき、部屋全体の作りがそれほど頑丈というわけではないらしい。地面にひび割れが走るのに、レイヤーは気付いていた。
転がったブラディマリアはすぐさま起き上がったが、その表情には驚きと怒りが隠せなかった。
「ええぃ、忌々しい! 妾を地べたに転がすとは!」
「それはこっちのセリフ。歯が一本折れた」
ぺっ、とヴァイカが折れた歯と血を吐き出した。既にヴァイカは二枚目の装束を脱いでいる。残しているのは一見薄手に見える襦袢と、体にぴたりと吸い付くような極薄の黒の装束だけである。
彼女たちのやりとりを浄儀白楽は見て、素直に称賛する。
「驚いた。ブラディマリアを正面から打ち崩すとはな」
「――腹立たしくはあるが、ヴァイカは起きている一族の中では最強の戦士。魔人とやり合っても少々のことでは負けはしない」
「なるほど。ではこちらを片付けて助成に行くとしようか」
「そうはいかない。直接触れられないのなら、他に戦い様がある」
「む?」
浄儀白楽は周囲を取り巻く空気の色と臭いが変わったことに気付く。その奥でチャスカがくすくすと笑う。
続く
次回投稿は4/24(金)12:00です。