戦争と平和、その512~廃棄遺跡㉛~
「いくら時が止められるとして、基本的な技術ができてなさすぎる。そんな技じゃあ、私に有効打を入れることは不可能。いつぞや戦った獣王の一団の方が手ごたえがあった」
「な・・・図に乗って!」
「図に乗ってない、私が強いことは事実。長く銀の一族を支えてきた。鍛錬を怠ったことは一度としてなく、ソールカ姉さま以外に負けたことも一度もない。
舐めているのはお前の方だ、チャスカ」
チャスカは再度時を止める。今度はより長く、確実にヴァイカの息の根を止められるように。だがそ自分以外の時が止まる空間で見たのは、ヴァイカが止まったまま見えぬほど猛烈な連撃を放っていたという事実。時が止まってもチャスカが近寄れないように、全方位に同時に放たれた舞。拳と衝撃波の結界とでもいうべき行動に、チャスカは近寄れすらしなかった。
時が動き、距離を取ったチャスカの顔が真っ青になった。
「お前、化け物!」
「銀の一族は畏怖されるべき存在。そう言ってもらえるのは光栄だけど――」
ヴァイカが上着を「一枚」脱いだ。ヴァトルカ、ジェミャカがそうしているように、ヴァイカも当然その動きを制限している。だがヴァトルカの上着は一枚になっているが、ヴァイカはさらにその下に着こんでいた。
それが何を意味するか――わからぬ銀の一族は一人としていない。ヴァイカは告げる。
「どれほどの修練を重ねても頂は遥か遠く――私はまだその形すら見ることは適わない。それはソールカ姉さまも同じだと言っていた。頂すら見ようとしない者に、私は負けない。
仕置きが必要だ、チャスカ。私に負けたら言うことを聞いてもらう」
「なっ、なん――」
チャスカは反論しようとして、何も口に出来なかった。ヴァイカの底力はまだこんなものではない。ならば勝つ方法など皆無――それがわかっているからだが、それでも負けを認められない自尊心があった。
だがそこにさらに乱入してくる者がいた。
「ほぅ、頂とな。興味のある話ではないか? じゃが、妾がいない場所で頂の話をするのは気に食わぬ」
「誰?」
「頭が高い、控えよ小娘」
ヴァイカに高重力の魔術を放ったのは、ブラディマリアだった。地面が軋むほどの高重力に、ヴァイカも体の自由を奪われる。
「さすが銀の一族。サイクロプス程度なら3つも数える間に平たくするのじゃが。頑丈よな」
「お前、魔人か?」
「その通り。貴様たちだけで頂云々の話をするのは、ちと図に乗り過ぎではなかろうか?」
「なるほど。最初の七種族ならそういう権利はあるかも」
ヴァイカは徐々にブラディマリアの方に向き直っていた。その様子を見て、ブラディマリアはちっ、と舌打ちした。
「旦那殿! こっちはこっちで手一杯になりそうじゃ! そちらは任せてよいかの?」
「なんだ、俺の助力がいるのか?」
「夫婦であろ?」
「最強を自負するならまとめて相手くらいしてみせよ、と言いたいが。暇だからな、少し俺の遊ぶとしようか」
浄儀白楽がチャスカの前に立った。チャスカが馬鹿にしたように浄儀白楽を見て笑った。
「ただの人間が私の相手? すぐ死ぬだけ」
「そうか? ならば試してみろ」
「ふん、それが最後の言葉でいいの?」
「口数の多い女だ。多少黙っていれば、抱いてもよいと思えるほどには見目もよかろうに」
浄儀白楽の言葉に苛立ちを覚えたチャスカは、躊躇なく浄儀白楽を殺そうと時を止めた。だがその中で浄儀白楽に触れようとして、その手を止めた。何か嫌な予感がする。
チャスカは浄儀白楽に触れることなく、時を止めること中断した。チャスカが自分を殺しそびれたことに気付き、浄儀白楽がふっと笑う。
「さすがに勘は良いか。触れなくて賢明だ」
「お前――何した?」
「さぁ? 戦いの最中に自分の手の内を明かす馬鹿がいると思うか? 中々に憂い奴だな、貴様。少し興味が出てきたぞ。屈服させたら、どんな声で泣くかな?」
「ひっ」
浄儀白楽のその言葉に本能的にのけぞるチャスカ。その様子を見て、ブラディマリアが釘をさす。
「旦那殿、妻の目の前で堂々と浮気かえ?」
「少し遊ぶだけだ。気などやってはおらぬ」
「とはいえ!」
「嫉妬は見苦しいぞ、マリア。嫌ならさっさとそちらを終わらせろ」
「ぬぅ、まさかの夫婦の危機か。さしもの妾もこのような危機は想定しておらなんだ」
「何なのこの戦い。おかしいわよぅ」
わけのわからぬ混戦状況で笑う不敵な人物たちを前にして弱気な発言をジェミャカがする頃、部屋の中ではさらなる変化が起こっていく。
続く
次回投稿は、4/22(水)12:00です。