表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1974/2685

戦争と平和、その510~廃棄遺跡㉙~

***


 ティタニアがレーヴァンティンの元に駆けつけると同時に、ウッコとレイヤー、ルナティカが戦う部屋に入ってきた者がいた。 


「ヒョヒョ、中々良い戦いですねぇ」


 声の主であるハンスヴルは身を躍らせると、苦戦するレイヤーとルナティカの眼前にいた触手を一撃で薙ぎ払う。


「ふぅむ、あまり手ごたえがありませんな」

「お前、さっきの道化!」


 レイヤーとルナティカは咄嗟にハンスヴルから距離をとった。ハンスヴルは戦いの中、襲い来る触手を締めあげながら丁寧に礼をした。


「『道化師』ハンスヴルです。覚えていただきたく」

「邪魔するつもり!?」

「いえいえ、むしろお手伝いをと。不本意ながら私、普通の戦いでは飽き足らなくなりまして。これほど強い魔獣が存在していることに、感謝感激でございます。できましたら、お譲りいただけたらと思いますが。

 いえいえ! もちろん一緒に戦っていただいても、なんなら三つ巴でも構いません。重要なのは、楽しむことでございますれば」


 ハンスヴルが後ろから飛んでくる光線を見もせずにひょいひょいと避けている。その様子を見ながら、レイヤーとルナティカは互いに頷いた。


「勝手にして」

「戦いなんてちっとも楽しくないさ。譲るよ」

「おや? その割には口元が綻んでいらっしゃる」

「え?」


 ハンスヴルに指摘されてレイヤーは口元に思わず触れたが、その口角が上がっていることに指摘されて初めて気付いたのだ。

 呆然とするレイヤーを確認すると、ハンスヴルはまるで幼子をあやすかのように優しい微笑みを見せた。


「どうやら覚醒したての雛の様子。それでいてアナーセス、ダート、ヤトリ、バンドラスを屠るとは素晴らしい! まさに原石! できれば存分に熟してから戦いたいのですが、そうもいかぬのが悲しき世の摂理!」

「なんでさ」

「私、不治の病に侵されておりますれば、放っておいても半年もたぬかと。ならばいっそ、徒花は盛大に散らすがよいかと。それに最適な相手を探しておりまする」

「勝手に散ってくれ、こっちの知ったことじゃあない」

「なんと冷たきお言葉にぞくぞくいたします! ふむ、では私への慰めとしてせめてこの魔獣はいただくとしましょう!」


 ハンスヴルは後ろから同時に襲い掛かる四本の触手めがけて、後ろ手のまま一斉にダガーを投げ放って葬った。ハンスヴルが削った分、さらに触手が本体から伸びてくるが、ハンスヴルは歓喜の表情でそれらに踊りかかっていく。

 一端危機を脱したレイヤーとルナティカはティタニアが入っていった扉の方向に下がり体勢を立て直すが、レイヤーの表情は冴えなかった。


「まずいね」

「何が?」

「膠着状態にしてティタニアの帰還を待つつもりだったのに、あの道化師が強すぎる。魔獣が起きたらどうしようもない」

「起きれないんじゃ?」

「いや、いつでも起きるよ。あの魔獣の意志は常に僕たちを捕えている。この触手で仕留められないとなれば、次の手段に出るはずだ」


 レイヤーの懸念が当たったのか、魔獣の背中が大きく隆起した。そして背中を突き破るようにして、何かが飛び出してきたのである。

 同時に、入り口から姿を覗かせた者たちがいる。


「なんで部屋が開いて・・・あの小僧、何者さ?」

「これが伝説の魔獣ウッコ・・・これをどうしようというのですか、チャスカ姉さま?」


 ヴァトルカとジェミャカ、そしてチャスカが部屋に入ってきたのだ。彼女たちはレイヤーとルナティカの戦いをそっと見守り、手出しをしようとはしなかった。ハンスヴルはチャスカに気付ていたようだったが、気にせずチャスカは部屋に入っていき、またヴァトルカとジェミャカもそれを止めなかった。

 チャスカはジェミャカとヴァトルカの疑問に答えることなくウッコを見つめると、その口の端にうっすらと妖しい笑みを浮かべるだけである。


「・・・見つけた」

「え?」

「これでようやく、殺せる」

「待ってください、姉さま。誰を殺すのです?」

「里の長老たち、全部」


 その言葉にぞくりとするジェミャカとヴァトルカ。チャスカが普通の戦姫とは違う教育を受けていたのは知っている。あまりに特殊だったその能力は里でも畏れられ、制御ができるようになるまでは完全に隔離されていたと聞く。光も音もない空間で宙づりにされ、それこそ何日も放置されたとか。

 訓練だったのか、幽閉だったのか。解放された時のチャスカの髪色は銀ではなく白に近くなっていたとか。そして今の今まで、ほとんど活動らしき活動もなく、三番手という地位だけを与えられ飼い殺しにされてきた。それがチャスカという戦姫である。

 そもそも里から出る許可などなかったはずなのだ。きたるべき戦に備えてチャスカの慣らし運転をどこかでするとはヴァトルカは聞かされていたが、それが今の時期だとは聞いていない。おそらくはチャスカの暴走。だとして、番手もついていないヴァトルカに止める手立ては皆無だ。

 それでも意見することだけはやめないのが、ヴァトルカの生真面目さというか、度胸なのか。



続く

次回投稿は、4/18(土)12:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ