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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1973/2685

戦争と平和、その509~廃棄遺跡㉘~

「なんですか、まだ伝えたいことがあると――何? 何ですか、これは?」

「(レーヴァンティン、あなたに使命を託します。時間がないため人格は付与できませんが、あなたはいざとなれば――も可能なのです。暴走するあの人を止めることができる唯一の希望。あなたを彼らに託して脱出させます。

 竜も魔人も――だから、きっと監視も緩いはず。それにいざとなれば私の子が何とかするでしょう。レーヴァンティン、レメゲート。つらい役割だけど、お願いね。もう時間がない――)」

「(母上、脱出を! もう時間がありません! そこまで追手が――)」

「(いえ、私の脱出は無理でしょう。私は最後までやるべきことがあります。ユ――、あなたは脱出なさい)」

「(馬鹿な、私の役目は――)」

「(これを持って、いざという時のための予備よ。彼らはまだ未成熟な種族だから、使命を忘れてしまうかもしれない。その時はあなたが――)」

「(しかし私は――)」


 そこまででレーヴァンティンの記憶は途切れ、はっと我に返ったティタニア。その直後、大量の汗が噴き出た。出血も痛みも、解けかけた封印も忘れ、ティタニアは先ほど頭に流れ込んだイメージを反芻していた。


「今のは・・・? 画像はぼやけているし、声も一部がかすれて聞こえなかったが、いったいいつの出来事なのか。かつてあった古の大戦よりも余程古いのではないだろうか。

 まるで天にも届くような高さの壁が金属でできた建物、それに見たこともない白い服装。――あの母上と呼ばれた女性、アルフィリースに似ていたような気がしないでもなかったような。

 それにしても母上と呼んだあの少年には見覚えがある。あれはきっと――」


 そこまで考えて、ティタニアは部屋の外から聞こえた轟音で我に返った。先ほどよりも一段階も二段階も上になった魔力の量。ティタニアは危険を察知し外に出ようとしたが、右手はレーヴァンティンに吸い付き、捕えられたかのように動けなかった。


「まだ用があると? いや、私をここから出さないようにしているのですか?」


 部屋の中に吹きすさぶ熱風と、外から響く轟音に魔獣の叫び声。そしてしばしの静寂の後、ティタニアは突然体の自由を取り戻した。かと思ったら、レーヴァンティンが根元から抜けたのだ。


「何? これはレーヴァンティンが私を所有者と認めたのでしょうか――いえ、違いますね。私はただ運ぶだけ、あの魔獣にとどめをさすために。そうですね?」


 まるで返事をするかのように、レーヴァンティンの深紅の宝玉が輝く。ティタニアはふっと笑うと、レーヴァンティンを手に取った。


「まさかここに来て武器を使うのではなく、使われるとは――ここまで意図を読めない武器は初めてです。意志はあるはずなのに――お前は余計なことを考えずに、ただ一つの主人の命令をずっと守っているのですか?」


 ティタニアの問いにレーヴァンティンが答えることはない。だが、ティタニアの中には確信があった。


「よろしい。短い命ですが、あなたに使われてみるとしましょう。結果としてこの身がどうなろうとも、それもまた運命か。あんな魔獣、放置しておけばペルパーギスよりもよほど危うい。ここで仕留められるならそうしましょう」


 ティタニアが部屋の外に出ると、そこには驚きながらも部屋の中を探るアルフィリース一行がいた。

 ティタニアはここまで到達したアルフィリース一行に驚きながらも安堵し、そして一瞬気が抜けると足の力も抜けてしまうような気がした。そして先ほどのレーヴァンティンの記憶を思い出しながら、


「(なんだ、やはり別人ですが――気配はそっくりですね。その場にいなかった私が気配というのもなんですが。

 私が得た記憶はおそらく、かつてなきほど人間にとって重要であるもの。そしてアルフィリース、あなたにとっても――ですが、伝える時間がない。なんとも運命は皮肉ですね)」


 そんなことを考えながら魔獣ウッコの後を追ってぽっかりと開いた穴に身を躍らせたティタニアだが、その表情が微笑んでいたことには本人ですら気づいていなかった。



続く

次回投稿は、4/16(木)12:00です。

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