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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1972/2685

戦争と平和、その508~廃棄遺跡㉗~

「(これがレーヴァンティン――この剣さえあれば、村を滅ぼしたあの魔王を――ただの一振りで此の身が燃え尽きるとしても、それでも――やめて、あなた! 残された私たちはどうしたら――馬鹿が、あんなものを振ってしまったせいで、このあたりの火山帯は数千年は活性化したままだ。これでは私がこの土地から離れられないではないか――)」

「今のは・・・これまでにこの剣を振るった猛者たちか? 最後のは、炎姫エンデロードだと?」


 ティタニアの中を駆け抜ける記憶。だがそれだけで終わりではなかった。光景はさらに昔に。天を埋めるほどの有翼族、魔人、竜が魔獣2体と対峙している。その魔獣のうち一体は、先ほどの魔獣だ。ただ違うのはさらに巨大で、常時黒い炎を発しながら次々に魔人や竜を引き裂いている。竜のブレスに怯まず、魔人の魔術すらものともせず、縦横無尽に蹴散らし、天を闊歩していた。

 圧倒的多勢でありながら劣勢の先頭に立つのは、一人の美しい女だった。軍勢は既に混乱し、各種族を率いる者たちまでもが混乱しているように思われた。


「(なぜだ! なぜ何の攻撃も通らないのだ!?)」

「(どこから湧いて出た、この魔獣ども)」

「(こいつらはおそらく――なのだ! せっかくの新天地だと思ったのに――)」

「(くそっ、我々を縛るくびきからようやく解放されたと思った途端、これか! 運命はどこまで我々を弄ぶ? それともこれが女神の怒りだとでもいうのか?)」

「(ふざけろ! あんな者は女神などとは言わぬ! あれはただの狂った邪神だ!)」


 ――女神? 邪神? ティタニアは誰かの視点でこの光景を見ているのだが、これが誰の視点なのかはわからない。不毛にも感じられる議論の中、さらに場面は進む。他種族の連合は、さらにその数を減らしていた。


「(やはり白銀公の助成が必要なのだ! 通用したのはあれだけだった!)」

「(よせ、あの深い傷は1日そこらではなおらない。彼を万全にしなければ、それこそ我々は全滅だ!)」

「(だがもう戦線は数日も維持できぬ! もう元の1割もいないのだ! 無事な者はほとんどおらず、戦意もほぼ失われている。今日が限界だ!)」

「(その通りだ。だが、だが――)」


 全身が言葉を失くす中、皆の先頭に立っていた女性が悲愴な決意をした表情で、声を上げた。


「(私がやります!)」

「(やめろ、シモーラ! 管理者の手出しは許可されていない! 壊れるぞ!?)」

「(ですが、ここであの魔獣を倒さねば終わりなのです! 何のために我々は生き延びて、新たな命を育んだのか――次の世代に望みを託す、そのためなら、この身朽ち果てるまでレーヴァンティンを振るうのみ!)」

「(やめろ、シモーラ! お前がいなくなれば、どのみち我々は――)」

「(可能性を信じましょう。我々のあとに続く種族たちのことをーーそのために、我々は)」


 場面が切り替わり、レーヴァンティンの一撃で魔獣の一体が切り裂かれる。だが絶命間際の一撃で、シモーラなる女は致命的な重傷を負った。それでもその手が止まることなく、今度は先ほどの赤と金の魔獣に向けてレーヴァンティンが振り下ろされる。


「(浅かった――まさか、三撃で限界が来るとは)」

「(資格なしに振ったのだから、素晴らしいものだわ。さすが神剣レーヴァンティン、いえ、統神剣レーヴァンティンと呼ぶべきかしら? アッカやウッコの魔獣如きでは抗う方法はなかったようね)」

「(エンデロード、私は限界のようです。少なくとも、長い眠りにつく必要がある。この段階で数十に及ぶ規約違反ペナルティを犯しました。その代償を支払わなくては)」

「(ええ、わかっているわ。あとのことは我々に任せなさい。随分と数は減ってしまったけど、こんなことで希望を閉ざさせたりはしないわ。

 問題は、そもそもあなたの遺跡にいたはずのウッコとアッカを誰が解き放ったのかということね)」

「(ええ。中層も下層も私の管理下ではない――永久に閉ざされていたはずの領域なのです。解放できるとしたら同じ遺物ですが、パンドラくらいしか思い当らない。だけどパンドラがそんなことをするはずがないし、パンドラに強制介入できる者なんて我々管理者でも――)」

「(ふらついているわ、シモーラ。少しおやすみなさい。休息を得ながらでも、情報交換はできるはずよ?)」

「(ええ、そうですね。休むとしましょう――それではしばしの休息をいただきます。あ、土地の浄化機能は残しておきますから、皆様も休むのでしたら私の遺跡の近くでどうぞ)」

「(はいはい、こんな時にまで真面目なんだから。ようやくこの大地にも緑が増えてきましたものね――)」


 ティタニアの中では優しく笑う二人だが、ティタニアはおかしなことに気付いた。シモーラは休むと言ったはずだ。ならば、目の前にいる半壊したシモーラのような物体はなんなのだと思う。そしてさきほどの扉が開かずの扉だったのだとしたら、それを難なく開けてしまったレイヤーとは。

 だがレーヴァンティンが伝える記憶にはさらに続きがあった。ティタニアは激しい情報の波と頭痛に手を放そうとしたが、レーヴァンティンが許可しない。レーヴァンティン自体の意志は希薄なのに、伝えるべきことがあるとでもいうように、手が吸い付いて離れないのだ。



続く

次回投稿は、4/14(火)12:00です。

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