戦争と平和、その505~廃棄遺跡㉔~
「ティタニア!」
「? あなたは――」
青白い顔のティタニアが振り返る。やや意識が朦朧としているのか、ティタニアはレイヤーを見て少し考えるような仕草を見せた。
「――武術大会に出場していましたね。いえ、それ以前にノースシールで会いました。あの時も良い剣士だと思いましたが、また見違えたものです。一瞬誰かわかりませんでしたから」
「背は多少伸びたけど。そんなに違う?」
「良き戦いに恵まれたのでしょうね」
「それは納得できる」
レイヤーは頷き、ティタニアの表情は少し和らいだ。
「して、何用でしょうか?」
「この先に行くんでしょ? レーヴァンティンを奪取するだめに」
「そのつもりだったのですが、少し考えが変わったところです」
「どういうこと?」
「レーヴァンティンと同じ部屋の中に強大な魔獣がいます。現状ではレーヴァンティンを何事もなく奪取できるかどうか、その自信がありません。良い策はないかどうか、思案していたところです」
「・・・事情を聞いても?」
ティタニアはレイヤーに素直に目的を話した。少しの間同行しただけだが、戦士としてレイヤーが信頼できることはわかっている。最初はレーヴァンティンを奪取するつもりだった。見ればどのような武器かはわかるから、今後の運用についても想像がつく。もし人の手に余るようなら、永遠に封印することも考えていた。
元々この遺跡の存在は知っていたのだ。レーヴァンティンがアルネリアの中にないのなら、この遺跡の中に隠したことは想像がついた。探索もかつて行ったことがある。そうなればあとは剣を奉じる一族としての本能のようなもので、レーヴァンティンのありかに導かれるように到達した。
一つ想定外だったのは、ティタニアの経験をもってしても経験がないほどの強力な魔物が遺跡の中にいたこと。かつて詳細に探索したのは数百年も前のことだが、アルネリアに到着時にはこんな魔獣の気配は感じなかったので、しばしどうするべきか考え、ペルパーギスの封印が解けた時にぶつけてやればよいのではいう発想に行き着いた。
問題は、部屋に中に入った時に中の魔獣がどのような動きをするのかということ。最悪なのはレーヴァンティンすら確保できず、何もできずに魔獣に殺されることだった。そのためティタニアは扉越しではあるが、魔獣の様子を探ろうとして扉の前で躊躇っていたのだ。
その言葉を受けてルナティカは即答しかねたが、レイヤーが案を出した。
「そういうことなら、囮を僕がやろう」
「!? レイヤー、正気?」
「いたって正気さ」
「・・・なぜでしょう? 申し出はありがたいですが、そこまでしてもらう義理がありません。それに、返すものも、その時間も私にはないのです」
「確かに義理はないね。それに返してほしいものもないし。でも、持ちつ持たれつってことならいいだろう」
「どういうことです?」
「威力偵察するなら、最適な組み合わせだと思っただけさ。なんだったら、アルフィリースたちに危険が及ぶ前に片付けてやる」
レイヤーの言葉にティタニアがふっと笑った。剣帝である自分でさえ怯む相手に、なんとも剛毅なものだと。ルナティカは不安そうな表情をしていたが、既にティタニアはレイヤーの言葉に触発されたようだ。
「威力偵察ときましたか。たしかに、勝負はやってみねばわかりませんね。ですがこの扉はどうするのです? 正面突破するのはうまくないでしょうし、そもそも重すぎて開きませんが」
「これは――そっか。それが問題なのか。ルナ、開けられる?」
「無理。そもそも鍵穴がない。そこらへんの砦や宝物庫の扉とはわけが違う」
「いや、十分に凄いと思いますけど」
ティタニアが少し呆れながらもレイヤーが扉に障ると、急に目の前に小さな光の枠が現れた。そしてそこに文字が浮かぶと、勝手に出ては消えたりしている。
「な、なんだ?」
「これは・・・古代竜言語ですか?」
「ティタニア、読めるの?」
「私が生まれた時代ですら滅びようとしていた文字ですから、どうでしょうか。竜言語ならまだしも、壁画にいくつか残っている程度のものですがが・・・くっ、消えるのが速過ぎて読めません。ですが、これは古代竜言語ですらない? かろうじて一部だけ・・・お・・・り・・・017・・・ヴァ・・・初期・・・ストー・・・か?
何かを問いかけているようですが」
「じゃあ、『はい』で」
レイヤーが即答したので、ティタニアもルナティカもぎょっとした。
「ちょっとレイヤー、そんなに簡単に肯定しちゃだめ」
「そうだぞ、変な契約だったらどうする――あ」
ティタニアが忠告しようとして、目の前の扉が開き始めた。レイヤーはあっさりと答える。
「扉が閉まった状態で聞かれることなんて知れてるでしょ? そんなの、開けるかどうかに決まっているじゃないか」
「そうかな・・・?」
「それより二人とも、気を引き締めて。僕が先行するから、フォローを頼むよ!」
そういってレイヤーが真っ先に部屋の中に突入していったのだ。
続く
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